新燃焼コンセプトは「内燃機関の燃焼と点火を究極まで設計すること」を目指した。具体的には(1)乱れの生成を極限まで抑えて強いタンブル流を形成すること、(2)タンブル流の渦の中心軸が常に気筒内の空間の中心に来るよう制御し、点火までタンブル流を保持すること、(3)点火タイミングの前に点火プラグ部分に合わせてタンブル流を整流すること、(4)点火プラグ部でサイクル変動の少ない安定した流速とすることにより、適度に伸長した放電チャネルを形成することの4つを重視することがSTARCという名称の由来だ。
STARC燃焼は、発電用エンジンで熱効率50%を目指す技術の1つで、他にもまだ採用されていない技術が残っている。
インバーターとモーター、減速機、エンジンからの発電機と増速機は、一体化した「5in1」となっている。日産自動車は2023年にEVとe-POWERで主要部品を共用する「Xin1」というコンセプトを発表しており、それが量産品として登場する。
Xin1は部品の共用による量産効果でコストを低減し、e-POWER搭載車やEVの価格を抑えることが主な目的だが、第3世代のe-POWERとしては部品の一体化が静粛性向上に貢献した。従来のシステムは部品が別体だったため、走行中に部品が揺れていた。この揺れが車体の振動によって増幅され、車内の乗員にも分かる振動や音になっていた。5in1となることで軸構造から見直すことができ、剛性は60%向上。車体と共振する領域を回避できることから静粛性が高まった。
車両全体でも静粛性の対策を施しているが、パワートレインの進化が大きく貢献し、車内の騒音レベルは5.6dB低減した。
Xin1を発表した2023年の時点では、インバーターにSiCパワー半導体を採用して損失低減と高効率化を図る方針が示されていた。第3世代e-POWERの投入初期にはSiCパワー半導体は採用されない見通しだ。
欧州の自動車ユーザーは不自然な運転感覚を好まないといわれる。第2世代のe-POWERを欧州に投入するまでに寄せられてきたe-POWERへの意見の中には、「運転操作と関係なくエンジンが始動することへの違和感」「加速とエンジンの回転数が一致しないことへの不自然さ」を指摘する声があった。
第2世代のe-POWERを搭載したキャシュカイは、VCターボエンジンを採用し、加速とエンジン回転数のリニアリティを重視して開発した。時速30kmまでは1600rpm、時速80~90kmまでは2000rpmとし、それ以上の速度域ではさらに回転数を上げた。発電専用でタイヤの駆動力には直結していないが、車速が上がるのに合わせてエンジン回転数を上げる演出により気持ちのよい加速感を生み出した。
可変圧縮比のVCターボエンジンは、回転数を抑えて静粛性を確保しながら大トルクを生み出せることがメリットだった。また、アウトバーンでの高速走行でモーターを回し続けるのも発電機に大トルクが必要だった。回転数を低くできる点は、ドライバーがアクセルを踏み、速度が出るのに合わせてエンジン回転数を上げる余裕をつくるところにもつながった。だが、e-POWERではバルブタイミングコントロールのレスポンスやアクセル操作への反応の良さは重要ではない。それが発電用エンジン見直しのポイントにもなった。
第2世代のe-POWERは加速もよく、音や振動も特に気にならない範囲だが、第3世代はリニアリティをさらに深掘りし、より自然でドライバーの意図通りになる加速を実現するとしている。
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