ここからはトリチウムの分離についてお話しします。欧州のDEMO炉設計を参考にしました[参考文献4]。最初に、固体増殖ブランケット(図2のAとB)におけるヘリウムパージガスからのトリチウム分離について触れます。
前提として、Li化合物のペブル内部で生成したトリチウム原子(T)は、高温下で表面へ拡散していきます。この拡散を促進するために、ヘリウムパージガスに0.1mol%のH2を添加します。すると、H2中の水素原子(H)がトリチウム(T)と交換反応を起こし、HTが生成されます。
さらに、ペブル内部の酸素原子(O)や、ヘリウム中に不純物として含まれる微量のH2OとTが反応し、HTO(水蒸気形トリチウム)が生成されることが知られています[参考文献5]。従って、気体状態のHTと水蒸気状態のHTOの両方を分離する必要があります。欧州DEMO炉で検討されているトリチウム分離フローを図3に示します。
ブランケットからのパージガスは、2種類のモレキュラーシーブベッドを持つトリチウム抽出システムに送られます。反応性モレキュラーシーブベッド(Reactive Molecular Sieve Bed、RMSB)は、白金を添加したゼオライトを使い、水蒸気形のHTO、H2Oを簡単に吸着することができます[参考文献6]。
吸着後に、H2をパージしながら加熱再生すると、同位体交換により、ゼオライトの中のTが選択的にHTに置き換わり、パージガスとともにトリチウムを抽出することができます。
RMSBを通した乾燥したガスは、77Kの液体窒素で冷却され、極低温モレキュラーシーブベッド(Cryogenic Molecular Sieve Bed、CMSB)に送られます。こちらは、水素ガス形のH2、HTを吸着できるモレキュラーシーブです。吸着後に、減圧しながら加熱することで、トリチウムを抽出することができます。
RMSBとCMSBからの回収ガスの成分は約96%がH2、約3%がH2O、残りの1%ほどがトリチウムを含むHTと微量のHTOです。これらをトリチウム分離プラントに送り、最終的に水素ガス形のトリチウムT2を生成し、核融合反応の燃料として利用します。
トリチウムの分離方法には約10種類が存在しますが、現時点ではどの方法を採用するかは決まっていません。有力な候補としては、パラジウム・オン・ケルセライト(Pd/k)を使用した熱サイクル吸着プロセス(Thermal Cycling Absorption Process、TCAP)、プラズマ中のイオンが電場や磁場の作用を受けるプラズマ分離プロセス(Plasma Separation Process、PSP)、沸点の違いを利用した極低温蒸留などが挙げられます[参考文献7]。今後、経済性、安全性、分離係数などの要因を総合的に考慮し、最適な分離方法が決定される見込みです。
前述のヘリウムからのトリチウム分離に対して、液体PbLiからのトリチウム分離は、技術が成熟しておらず、まだ設計が完了していません。その方法の概念についてもいくつかの案があり、実証実験が進められているところです。その概念を図4にまとめました[参考文献4、8]。
気液接触器(Gas−Liquid Contactor、GLC)は、広く知られた工業技術です。液体PbLi(鉛リチウム)をヘリウムガスと直接接触させることで、トリチウムをヘリウム側へ拡散させる原理に基づいています。接触面積を増やす方法として、図4のようにヘリウムを気泡状にする他、充填層内で液体PbLiとヘリウムガスを対向に流す方法も考えられています。
ヘリウムガスへの拡散を促進するために、水素を微量添加します。これは、前述の固体増殖ブランケットと同じです。この技術の問題点は、水素ガス形と水蒸気形両方のトリチウムがヘリウム中に生成される(固体増殖ブランケットと同じ状況)ため、図3と同じトリチウム抽出システムが必要となることです。
GLCを発展させたのが、真空対向透過膜(Permeator Against Vacuum, PAV)です。水素の透過性が高いニオブ(Nb)またはバナジウム(V)の膜を用いることで、液体PbLiからトリチウムのみを真空層に拡散させる手法です。この手法の原理実証は既に完了していますが、膜の耐久性などの課題については引き続き研究開発が進められています。PAVの利点は、水素ガス形のトリチウムのみが抽出されるため、トリチウムの分離が非常にシンプルになる点です。
PAVをさらに発展させた液真空接触器(Liquid Vacuum Contactor、LVC)は、欧州DEMO炉においてバックアップ手法として研究が進められています。LVCは、PAVから金属膜を取り除いた構成で、液体PbLiの自由表面を真空層と直接接触させる非常にシンプルな方式です。この方法は有望ですが、接触表面積を増やすために液滴化するなどの工夫が必要となり、現在はまだ研究が始まったばかりの段階にあります。
次ページでは、プラズマからの排ガスの処理についてお話しします。
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