お好み焼きの作り方からリチウムイオン電池の電極製造工程をイメージしてみよう今こそ知りたい電池のあれこれ(31)(3/3 ページ)

» 2025年04月03日 09時00分 公開
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プレス

 乾燥後には、電極合材をプレスする工程に移行します。適切な圧力や速度のプレスによって、電極合材を圧縮、電極の厚みや多孔度を調整し、電極密度を上げて機械的強度や耐久性を向上させることが可能です。

 適切なプレス圧力や速度は、電極の厚みや多孔度だけではなく、表面品質にも影響を与えます。過剰な強度によるプレスは、電極の波打ちや湾曲の要因となり、電池の耐久性が低下する可能性もあるため注意が必要です。

スリット

 最後のスリット工程は、電極シートを必要な寸法に裁断する重要なプロセスであり、特に裁断面の品質が求められます。スリット加工中に発生する微小な金属粒子や加工屑が電池に混入すると、電池の性能低下や安全性の問題を引き起こす可能性があります。同様に裁断面に発生するヒゲやバリを最小限に抑えることも、内部短絡のリスクを低減し、電極の化学的安定性や機械的強度を維持するためには重要です。

 また、スリット後の電極は低湿度環境で取り扱い、必要に応じて追加の乾燥処理などを行ってから真空梱包することで、電極への水分吸着を防げるとともに、電極の性能を長期間にわたって保持できます。



 今回取り上げた電極の製造工程は、それぞれが電極の特性に大きく影響を与える重要なプロセスであり、各工程を適切に設計/制御することで、リチウムイオン電池の電極に求められる特性を管理できるようになります。スラリー作製、塗工、乾燥、プレス、スリットといった一連の工程を適切に設計/管理することが、リチウムイオン電池の電極に求められる特性、そして電池自体の性能や信頼性を最大化する鍵となります。

 連載第27回から今回までの5回にわたって、リチウムイオン電池の電極について解説してきました。

 一連の解説の中では「スポンジ」や「お好み焼き」のような身近な例に置き換えて考えることでなるべくイメージしやすく、リチウムイオン電池の電極に求められる4つの特性(高エネルギー密度、低抵抗、機械的強度、化学的安定性)の観点に沿って整理することで、とりとめのない話にならないように注意しながら進めてきたつもりではありますが、もし可能であれば再び第27回に戻り、ここまでの内容を踏まえてもう一度読み返していただけると、また新たな理解が得られるかもしれません。

 ここまでご紹介したように、電池は極めて多種多様なパラメーターが絡み合い、どこか一つの値が変わっただけでも、最終的な性能に影響を与え得るものです。筆者が所属するカーリットの受託試験部では、今後も受託試験を通して電池技術の発展に貢献できるよう、複雑化する電池評価と真摯(しんし)に向き合って日々取り組んでいきたいと思います。

著者プロフィール

川邉 裕(かわべ ゆう)

株式会社カーリット 生産本部 受託試験部 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。

▼株式会社カーリット
https://www.carlithd.co.jp/

▼電池試験所の特徴
http://www.carlit.co.jp/assessment/battery/

▼安全性評価試験(電池)
http://www.carlit.co.jp/assessment/battery/safety.html

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