注目を集めるリチウムイオン電池をはじめ「電池のあれこれ」について解説する本連載。今回は、お好み焼きの作り方との比較から、「スラリー作製」「塗工」「乾燥」「プレス」「スリット」から成るリチウムイオン電池の電極製造工程をイメージしてみる。
前回は、リチウムイオン電池の電極に求められる4つの特性の中から「機械的強度」と「化学的安定性」について、主に電極構造や材料に注目して解説しました。
今回は、電極の製造工程がこれらの電極特性に与える影響について、さらに詳しく解説していきます。
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電極製造工程の概要については以前にも解説しましたが、今回はあらためて「スラリー作製」「塗工」「乾燥」「プレス」「スリット」に分けて整理し、それぞれの工程が電極の「機械的強度」と「化学的安定性」に与える影響について考えてみたいと思います。
電極を構成する各材料を溶剤中で混合、分散して、合材塗料となるスラリーを作製し、そのスラリーを塗工した金属箔を乾燥させ、スラリー中の溶剤を揮発させることで電極合材を形成。その後、電極密度を調整するためのプレスや、電極サイズを調整するためのスリットといった加工をしていくという流れが一般的な製造工程となります。
そして、これも以前に述べたように、電極の製造工程は非常に多種多様なパラメーターが絡み合い、どこか一つの値が変わっただけでも、最終的な電池性能に影響を与え得るものです。
スラリーをどのような手法で混合するかは、電極合材中の各材料の分散性に直結しますし、用いる材料種や混合比によっても、混合時間や回転数、そもそもどのようなミキサーを用いるべきかなど、最適な混合手法が変わってきます。
出来上がったスラリーに対しても、塗工する速度や乾燥炉の温度設定によって、電極合材の仕上がりが変わってきます。
そして、どれだけの面積や厚みで塗工するのかは、まさしく電池の性能を決定するパラメーターですし、乾燥後の電極をどのようにプレスするかによっても、また電池性能が変わってきます。
こういった各要素の影響度を身近なもので考えるには「お好み焼き」、それも専門店のものではなく、近所のスーパーで売っているお好み焼き粉を使ってご家庭で作るものをイメージしてみるといいかもしれません。
お好み焼きを作る際、まず材料を混ぜ合わせるところから始めます。お好み焼き粉、卵、キャベツやその他お好みの具材、そして水を混ぜて生地を作るとき、混ぜる順番や時間によっては生地にダマができてしまい、焼き上がりの食感や舌触りに影響が出てしまいます。混ぜ方一つ取っても、菜箸で頑張る方もいれば、電動ミキサーを使って混ぜる方もいるかもしれません。
そして出来上がった生地を、ホットプレートやフライパンの上で焼く際、火加減や焼き時間によって、焦げや生焼けといった焼き加減や、ふわふわやパサパサといった食感のようなお好み焼きの仕上がりが変わってくることは言うまでもありません。
お好み焼き作りの工程を振り返ると、いかに適切な手順、温度管理、そして素材の扱いが「お好み焼き」という料理の仕上がりを左右する上で重要になってくるかが想像しやすいかと思います。
この後説明する電極の製造工程も「ドロドロのペーストを加熱し、液体成分を飛ばして固める」という意味では同じことが起こっています。
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