東京大学 生産技術研究所は、同研究所 教授の高宮真氏らの研究グループが開発したパワー半導体のスイッチング損失を自動で低減する技術の適用範囲を大幅に拡大することに成功したと発表した。
東京大学 生産技術研究所は2025年3月16日、同研究所 教授の高宮真氏らの研究グループが開発したパワー半導体のスイッチング損失を自動で低減する技術の適用範囲を大幅に拡大することに成功したと発表した。2023年3月に同技術を発表した時点では、ケルビンエミッタと呼ばれる4本目の端子を持つパワー半導体にしか適用できなかったが、今回発表した技術は一般的な端子数が3本のパワー半導体に適用できるようになり、対応する品種数は5倍に増加したという。性能実証試験ではスイッチング損失を16~30%低減できることを確認した。今後は、国内パワー半導体メーカーなどを中心に同技術を提案し実用化につなげたい考えだ。
今回の研究成果は、2023年3月に発表したパワー半導体向けにスイッチング損失を自動で低減する「自動波形変化ゲート駆動ICチップ」の改良となる。自動波形変化ゲート駆動ICチップは、出力電流を可変させられるゲート駆動回路、適切なタイミングを決定するためのセンサー回路、電流波形を変化させるための制御回路を1個のICに集積している。これにより、パワー半導体の負荷電流や温度など動作条件が変動しても、自動的に適切な波形でパワー半導体を駆動して、スイッチング時に生じるエネルギー損失やノイズなどを低減できる。
ただし、2023年3月の発表では、パワー半導体の状態をセンシングするのにエミッタに接続されている端子とケルビンエミッタ端子の電圧をセンサー回路で検出しており、このため4本目の端子と言われるケルビンエミッタを持つパワー半導体にしか適用できていなかった。高宮氏は「主要パワー半導体メーカー10社のWebサイトで製品ラインアップを調査したところ、総品種数1万1124に対して、4本足パッケージが約2割の2390、3本足パッケージが約8割の8734だった。各社によってバラつきはあるものの、採用を促進するには3本足パッケージにも適用可能な技術の開発が必要だと考え、今回の発表に至った」と語る。
新たな研究成果では、ゲートの駆動電流を検出することでパワー半導体の状態をセンシングする方式に改めた。そのためには、ゲートに接続されている端子に数Ωのセンス抵抗を挿入してセンス抵抗の両端電圧を検出する必要があり、これに合わせてセンサー回路も改良した。
試作したゲート駆動ICチップは2.5×2.0mmで前回発表時とサイズは変わっていない。そのスイッチング損失低減効果を検証するため、市販のシリコンのパワー半導体(定格電圧1200V、定格電流100AのIGBT)を用いて、600Vでのスイッチング試験を行った。負荷電流20A、50A、80Aの3条件、温度25℃、75℃、125℃の3条件の合計9条件の実測を行ったところ、全ての条件で一般的なゲート駆動ICと比較してスイッチング損失を自動で低減することに成功した。損失低減率は16~30%を達成できたとする。
なお、2023年3月の発表以降、パワー半導体メーカーによる自動波形変化ゲート駆動ICチップの採用は決まっていない。しかし、今回の発表で適用範囲が大幅に広がったことで実用化に弾みがつくとみられる。「開発した技術は、シリコンパワー半導体だけでなく、SiC(シリコンカーバイド)などの次世代半導体にも適用可能だ」(高宮氏)という。
なお、今回の研究成果はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の2021~2025年度の事業「省エネエレクトロニクスの製造基盤強化に向けた技術開発事業」の委託業務によって得られたものだ。また、パワーエレクトロニクスの国際学会「IEEE Applied Power Electronics Conference and Exposition (APEC) 2025」(2025年3月16~20日、米国アトランタ)で発表される予定だ。
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