いまさら聞けないCC-Link IE TSN入門(後編)産業用ネットワーク技術解説(2/3 ページ)

» 2025年02月26日 07時00分 公開

ネットワークの統合

 CC-Link IE TSNは、1ネットワークでI/O通信、モーション通信、安全通信を実現できるだけでなく、同一幹線上で複数のプロトコルが混在できます。さらに、リアルタイム性を確保した制御通信を実施しながら、他オープンネットワークの通信やITシステムとのシームレスな通信を同時に実現でき、同一ネットワークに統合することができるため、システム構成の自由度が向上し、配線コストを含むメンテナンス工数を大幅に削減できます。

CC-Link IE TSNでネットワークの統合を実現 CC-Link IE TSNでネットワークの統合を実現[クリックで拡大]出典:CC-Link協会

定周期性の保証

 CC-Link IE TSNTSN技術の活用により、TCP/IP通信のような情報通信が同一幹線上に混在しても、制御通信の定周期性を保証できます。コントローラーレベルの大容量データから設備監視のデータまで、システム制御に影響を与えることなく汎用IP機器を活用でき、柔軟なIIoTシステムを構築できます。

CC-Link IE TSNのネットワーク回線負荷のイメージ CC-Link IE TSNのネットワーク回線負荷のイメージ[クリックで拡大]出典:CC-Link協会

高度なモーション制御の実現

 従来のCC-Link IEは、1ネットワーク中でトークン(送信権)を保有している機器(ノード)が自局の送信データを送信した後に、隣接局にトークンを譲渡するトークンパッシング方式を採用しています。

 CC-Link IE TSNは、TSN技術の活用によりネットワーク内で同期している時刻に基づいて、決められた時刻で出力と入力の通信フレームを双方向に同時に送信する時分割方式を採用。この方式により、ネットワーク全体のサイクリックデータを更新する時間を短縮できます。

従来のネットワークとCC-Link IE TSNの通信方式の違い 従来のネットワークとCC-Link IE TSNの通信方式の違い[クリックで拡大]出典:CC-Link協会

 CC-Link IE TSNでは、同一ネットワーク内で複数の通信周期を運用することができます。高速な通信を必要とする機器(サーボアンプなど)との通信周期を維持したまま、高速な通信周期を必要としない機器(リモートI/Oなど)と同一ネットワークで通信できます。これにより、それぞれの機器の特性に合わせ通信周期を最適化することが可能になり、駆動制御の性能を最大化しタクトタイム短縮を図ることができます。

異なる通信周期の組み合わせで装置の性能を最適化 異なる通信周期の組み合わせで装置の性能を最適化[クリックで拡大]出典:CC-Link協会

立上、運用、保守における工数削減

 CC-Link IE TSNはSNMP(Simple Network Management Protocol)に対応しているため、汎用のSNMP監視ツールを活用して、CC-Link IE TSNに対応した機器だけでなく、スイッチングハブやルーターなどのIP通信に対応した機器の状態までまとめて収集・分析できます。

 また、TSN技術で規定された時刻同期プロトコルにより、CC-Link IE TSNに対応した機器は機器間の時刻のズレを補正し、高精度な時刻同期を行っています。マネージャ局やリモート局がそれぞれ持つ時刻情報(タイムスタンプ)をマイクロ秒単位で合わせているため、例えばネットワークに異常が発生したときの動作ログ解析時に、エラーが発生するまでの事象を正確な時系列で追えるようになります。

 さらには、製造現場の情報に正確な時刻情報をひも付けてITシステムへ提供することが可能となり、AI(人工知能)を活用したデータ解析アプリケーションによる予知保全などにおいて、より一層の精度向上が期待できます。

正確なタイムスタンプ情報と高度な分析 正確なタイムスタンプ情報と高度な分析[クリックで拡大]出典:CC-Link協会

無線、5G技術の活用

 CC-Link IE TSNで適用したTSN技術は無線、5Gとの親和性が高く、産業用途での無線化の要望も強くなっています。CC-Link協会ではユーザーのご要望にお応えするべく、パートナーメーカーと「無線対応ワーキング(WG)」を発足し、CC-Link IE TSNシステムにおける無線LANや5Gなどの無線技術の適用検討を推進しています。

 無線環境構築のためのガイドラインの作成をはじめ、2021年6月からは「情報・監視用途」の無線機器認証試験を開始しました。また、第三者認証機関の承認を得て、CC-Link IE TSNの無線通信でも安全通信が可能になりました。

 CC-Link IE TSNと無線技術を融合し、ユースケースに応じた無線環境の構築によるスマートワイヤレスファクトリーを実現します。

無線化による柔軟なラインの実現イメージ 無線化による柔軟なラインの実現イメージ[クリックで拡大]出典:CC-Link協会

 CC-Link IE TSNにおける無線機器は、情報・監視用途と「制御用途」のカテゴリーに分類して検討を行っています。各カテゴリーに当てはまる用途を種別と許容遅延時間の目安により分類し、無線機器選定における1つの指針になるように分類しています。

無線機器の認証カテゴリの用途と種別 無線機器の認証カテゴリの用途と種別[クリックで拡大]出典:CC-Link協会

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