工作機械の利便性を向上させてきたこの時代の新機能をこれまでに紹介してきた。最後に、こうした背景の中でファナックが1985年に開発した「FANUC SYSTEM 0」を紹介したい(図8)。
第2期のちょうど中間にあたる時期に開発されたものであり、今回の記事で解説してきた機能を象徴するCNCである。
まず、表示器としてはこれまでと同じ9インチのモニターを搭載していた。大きく進化したのは、表示器に出力する画面開発を工作機械メーカーが独自に行える環境を提供したという点である。
マクロエグゼキュータという機能であり、これはファナックのCNCを採用していた工作機械メーカーからの要望に応えたものであった。先に紹介した対話式プログラミング機能やその画面開発を、工作機械メーカーが競い合いながら進めていく時代が始まるのである。
FANUC SYSTEM 0にはそれ以外にも多くの進化があった。半導体メモリを持っており、紙テープを使わなくても加工プログラムをメモリに保存しておくことができるようになったこと。RS232Cというシリアル通信のインタフェース機能が整い、外部からのCNCパラメータの書き込みや加工プログラムの入力ができるようになったこと。これまでアナログ制御であったサーボ制御部がデジタル制御に移行したこと、などである。
特にデジタル制御への移行により、CNCとサーボ制御部の間の接続がデジタル通信となり、モータの制御に最新の制御処理を活用することができるようになった。これにより位置決めの高速化や高精度化が実現できるようになったのである。
このようにさまざまな機能を備えたFANUC SYSTEM 0は、CNCが工作機械の標準となるこの時期の中心的な役割を担い、1985年の登場から20年近くに渡り市場に販売され、累計35万台以上出荷されたという。CNCとしては異例の販売数である。
今回は、第2期である「CNC機の比率が高まり工作機械の標準になった時代」の前半について解説した。次回は第2期の後半に登場した機能や技術について解説していく。
謝辞:本稿は高桑MT技術士事務所 高桑俊也氏の監修の元、執筆を行った。CNCの歴史についての知見とその整理の方法など、実に数多くの助言をいただき、ここに同氏に対して感謝の意を表する。
高口順一(こうぐち じゅんいち)
ベッコフオートメーション ソリューション・アプリケーション・エンジニア 博士(工学)
東京大学工学部を卒業後、ものづくりコンサルティングファームに入社。その後、工作機械メーカーを経て、2015年からはドイツの制御装置メーカーであるベッコフオートメーション株式会社にてPCベースPLC/CNCであるTwinCATの技術を担当している。2024年には東京工業大学工学院 博士課程を修了。「センサ信号解析および機械学習に基づくエンドミル加工の状態モニタリング」を研究テーマに据え、工作機械とCNCの発展のために取り組んでいる。
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