金属疲労を起こした際にかかる対策コストは膨大なものになる。連載「CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる」では、CAEを正しく使いこなし、その解析結果から疲労破壊の有無を予測するアプローチを解説する。連載第17回では「ボルト締結体に作用できる許容繰り返し荷重」について取り上げる。
前回までの内容から、ボルトに発生する応力振幅を求めることができるようになりました。とすると、ボルトが疲労破断しない条件を満たす繰り返し荷重も求まります。ボルトが1本の場合と複数本の場合の応力振幅と許容繰り返し荷重を比較してみましょう。
被締結体には繰り返し荷重が作用するとして、ボルトに発生する応力振幅がちょうどボルトの疲労強度(ないしは疲労強度を安全率で割った値)に等しくなるような繰り返し荷重(許容繰り返し荷重)を説明しようと思いますが、結果だけを先に述べると図1のようになります。許容繰り返し荷重と応力振幅は逆数の関係になります。
図1のAは「荷重をボルトの有効断面積で割った応力の2分の1が疲労強度に一致する荷重」です。単純に「荷重÷断面積の半分」です。図1のBは内力係数Φを考慮したものです。ねじの文献の範ちゅうでBを求めることができるので、Bの許容繰り返し荷重を比較対象のベースとします。
図1のCですが、ボルト1本の場合について有限要素法で応力振幅を求めると、内力係数を考慮した値よりもかなり小さくなります(参考文献[1])。ユンカーはこのことに気付いていて経験的な係数を掛けていたそうです。現在では数表があります。筆者の場合は有限要素法解析をしているときに気付きました。
図1のDが本題です。ボルトが2本の場合は荷重の作用線とボルトの軸が一致しなくなり、ボルトには偏心荷重が作用して曲げ応力が発生します。すると、途端に応力振幅が大きくなり、許容繰り返し荷重は「ドカーン」と小さくなります。応力振幅の大きさは被締結体の形状により変化しますが、条件が悪いと図1のAに近い値まで減少します。Aに近い値になるということは、内力係数の効果がないに等しく、少しショックです。通常のホルト締結体の設計はBの値をベースとするのですが、例えば、ボルト2本として設計した場合、許容繰り返し荷重はBの2倍ということではなく、それよりもかなり小さな値にしなければなりません。図1のEはボルト10本の場合です。2本よりもさらに小さくなります。
それでは図1のB、C、D、Eを有限要素法で求めましょう。
連載第14回で、内力係数Φを有限要素法で求めました。この続きとなります。図2に荷重条件と拘束条件を示します。連載第14回で述べたのはL=0[mm]の場合でした。
ボルトに初期締結力を与えることと、応力振幅の求め方は既に説明しました。L=0[mm]のときのシミュレーションで求めた内力係数と文献の式による内力係数がほぼ一致しました。この条件が図1のBです。L寸法を変えたときの解析結果を図3と表1に示します。L寸法によって応力振幅が変化しており、L=0[mm]のときよりもかなり小さくなっています。これらが図1のCとなります。内力係数Φに換算すると、L=0[mm]のときのΦが0.130[-]であるのに対し、L=50[mm]のときのΦは0.023[-]と約6分の1になります。
単位 | L=0[mm] | L=50[mm] | L=100[mm] | L=150[mm] | |
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荷重 | N | 5566 | 5566 | 5566 | 5566 |
初期応力 | MPa | 138 | 138 | 138 | 138 |
荷重時応力 | MPa | 150 | 140 | 142 | 145 |
応力振幅 | MPa | 6.095 | 1.06 | 2.065 | 3.355 |
内力係数Φ | − | 0.13 | 0.023 | 0.044 | 0.072 |
表1 解析結果 |
初期締結力がかなり小さいのですが、その理由は前回述べた締め付け係数Qを3[-]としたためです。しかし、少し小さ過ぎましたね。被締結体に掛けられる許容繰り返し荷重を求めましょう。その前に、図1のAである「荷重をボルトの有効断面積で割った応力の半分が疲労強度に一致する荷重」、つまり許容繰り返し荷重は、例えばM10の場合には式1となります。
許容繰り返し荷重は、荷重振幅の2倍ですね。
ボルトの初期締結がある場合の被締結体に掛けられる荷重(許容繰り返し荷重:締め付けあり)は式3です。
表1のΦの値から許容繰り返し荷重はかなり大きくなります。しかし、初期締結力よりも大きくできません。
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