図5に、核融合三重積の最高記録の進展を炉型ごとに示しました[参考文献4]。トカマクについては建設中の装置も含まれています。この図は、核融合炉開発の進捗状況を俯瞰する上で大変重要なグラフです。
これまでも説明してきましたが、核融合三重積はプラズマの性能を示し、閉じ込め方式や炉型が違っていても、性能の比較ができます。図には水色の破線を入れましたが、これが核融合発電に必要なプラズマ性能の目安(1021m-3keVs)になります。なお、温度の単位にはkeV(1keVは約1000万℃)を使っています。
まず1960年代から1990年代にかけて、トカマクの核融合三重積が大きく増加します。1980年代には3大トカマク(日本のJT-60、欧州のJET、米国のTFTR)が製作され、プラズマの性能向上に貢献しました。そして1985年の米ソ首脳会談がきっかけとなり、日本、欧州を含めた国際協力でITERという大型トカマクを作る計画がスタートしました。
現在では35カ国が参加し、ITERの建設は終盤を迎えています。ITERは2034年に完成し、その後燃焼実験を開始し、プラズマを加熱するのに要したエネルギーの10倍の核融合エネルギーを発生する計画です。しかし、最近の計画の遅れが気になります[参考文献5]。
そのような状況の中、核融合ベンチャーの米国コモンウェルス・フュージョン・システムズ(CFS)が、SPARCトカマクの建設を開始しました。2027年に燃焼実験を始める計画で、ITERに匹敵するプラズマ性能を達成するかもしれません[参考文献6]。ITERもSPARCも発電は行いませんが、公的プロジェクトと民間企業、どちらが先に発電プラントを完成させるのかに関心が集まっています。
その他の磁場閉じ込め方式(ヘリカル、球状トカマク、FRC)はトカマクほどのプラズマ性能を達成していません。これには、トカマクのような大型の装置が建設されていないという事情もあり、基本性能が劣るということではありません。これらの炉型にも多数の核融合ベンチャーが参入してきているので、イノベーションを起こす可能性があります。なお、図中FRCの「C-2W(通称Norman)」は、米国の核融合ベンチャーであるTAEテクノロジーズの開発した装置です。
さて、図5を見て気付くことは、慣性閉じ込め方式であるレーザー核融合が最も高い核融合三重積を達成していることです。2022年には、米国のローレンス・リバモア国立研究所の国立点火施設(NIF)において、レーザーで燃料に投入したエネルギーの約1.5倍の核融合エネルギーを発生しました[参考文献7]。出力が入力を上回ることは「科学的ブレークイーブン」と呼ばれており、これは画期的な成果です。なお、このような成果は磁場閉じ込め方式ではまだ達成されていません。
ただし、電力をレーザー出力に変換する効率が低く、経済的な核融合炉を実現するためには、さらに効率の良いレーザー装置の開発が必要です。また繰り返し運転ができるパルスレーザー装置の開発も必要になります。
あまり知られていませんが、MagLIFのZ machineも高い核融合三重積を達成しています。こちらも基本的には、パルス運転ですから、繰り返し爆縮ができるかどうかが核融合炉実現の鍵になります。
次に、この10年で数を増やしてきた核融合ベンチャーにおける核融合炉開発のアプローチを紹介します。ここでは、米国の業界団体である核融合産業協会(FIA)が毎年発行している報告書の最新号 “The global fusion industry in 2024”のデータを参考にしました[参考文献8]。
現在、核融合ベンチャーの数は45社です。各会社のアプローチを閉じ込め方式と炉型で分類し、グラフにしたものが図6です。閉じ込め方式では、磁場閉じ込めが約半数、慣性閉じ込めが2割を占めます。炉型で分類すると、ヘリカル、レーザーの順で多く、同数でトカマク、球状トカマク、FRCが続きます。
公的プロジェクトでは主流のトカマクの順位が低いことも興味深いところです。そして、ここでは紹介していない「その他」の炉型(それぞれは1〜2社)の総数が約半数を占めていることに驚きます。既存の型にはまらないさまざまな炉型が核融合ベンチャーによって提案され、開発されているのです。この核融合炉開発における炉型の多様性は、逆に商業的に成り立つ炉型の選択にはまだ時間がかかり、どのアプローチが核融合炉になるかは誰にも分からないことを示しています。
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