MONOist なぜこのような組織の形としたのでしょうか。
小黒氏 1つは、サステナビリティを経営の根幹とし、それによりビジネス成長を目指すことを考えた場合、効率的な運営体制だと考えたからです。新たな事業創出を行うという面と、さまざまな環境規制に対応するため体制を強化するという面は表と裏の関係にあり、一体で動いた方が生かせることも多くあります。また、他の企業などに話を聞いても、従来の環境部門が取り組んできた情報収集や開示、基盤強化と、サステナビリティに関連する事業創出を一体で動かしているところはそれほど多くなく、三菱電機の強みになるとも考えています。
もう1つが、社会的な要請が不可逆で強いものとなってきており、それに対応する仕組みを強化する必要ができたためです。先日も米国に行きましたが、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーは、社会全体の大きな課題として強く認められており、対策を進めるのが当然という認識になってきたと感じました。製造業は地球環境に大きな影響を及ぼしており、さらに川下から川上まで幅広い産業構造である点からも、特に対策を強く求められています。
TCFD(気候関連情報開示タスクフォース)やCDPによる環境情報開示、欧州でのCSRD(企業サステナビリティ報告指令)など、情報開示のフレームワークも整備されつつあり、情報の開示とともに取り組みの成果が精査されるフェーズに入ろうとしています。その中でこうした開示への対応を含む責任領域への対策強化が必要となりました。さらに、この社会的な要請の強さをチャンスと捉え、事業に生かすための組織強化が必要だという発想で、サステナビリティ・イノベーション本部の今の形ができました。
MONOist 半年間取り組んできた手応えをどう感じていますか。
小黒氏 GISTプロジェクトでは既に先行して半年活動を進めてきましたが、そこに従来環境について取り組んできた専門家集団が一体組織となったことで、環境関連の専門的な知見が入るようになりました。現時点ではその点が大きいと感じています。
また、環境関連での価値創出については、GISTプロジェクトなどサステナビリティ・イノベーション本部で生み出していくものと、事業を実際に行っている各事業本部で生み出していくものがありますが、各事業本部との関係性構築なども進みました。各種規制やビジネス要件への対応については、各事業本部で対応しなければならないものも多くありますが、従来は各ビジネスエリアで個別で進めていました。それを本部で吸収し水平展開ができるようにすることで、全体的な強化につなげていきます。連携強化のために、それぞれの事業本部にサステナビリティ推進責任者を設置し、円滑な協力体制を構築しています。
MONOist それぞれの活動は順調に進んでいるのですか。例えば、脱炭素についてはどうでしょうか。
小黒氏 三菱電機では、カーボンニュートラルに向けた目標として2030年度までに「GHGプロトコル」のスコープ1、2において温室効果ガス排出実質ゼロを目指す目標を掲げています。そして2050年度にはスコープ1、2、3を含めたバリューチェーン全体で温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指しています。エネルギーマネジメントシステムやヒートポンプなど自社技術を生かしながら排出削減に向けた取り組みを進めていますが、現時点では順調に削減が進んでいます。
ただ、こうした取り組みはリニアに下げ続けることが難しく、最初は順調に下がっても、これから難しくなってくると覚悟しています。例えば、スコープ1の領域で半導体関連の炉など直接排出につながるものなどもありますが、電炉に置き換えたり、生産工程そのものを見直したりして、排出量を下げていくことが求められます。ただ、事業的に可能な点とそうではない点があるので、ビジネスとの両立が行えるような解決策を新たな技術開発やソリューション創出も含めて、検討しているところです。これらの課題は多くの製造業でも共通であるため、ソリューションとして確立できたものについては、外部への展開も検討していくつもりです。守りから攻めの流れを効率よく運営できるような仕組みをサステナビリティ・イノベーション本部で作っていきたいと考えています。
こうした取り組みの1つの例が「マルチリージョンEMS(エネルギーマネジメントシステム)」です。三菱電機では、再生可能エネルギー電力の複数拠点間での自己託送や蓄電システムの最適な運用により、拠点ごとの脱炭素化目標の達成を支援する独自のクラウドサービス型ソリューションマルチリージョンEMSを開発しました。それを異なる3つの電力エリアの4拠点をつなぐ大規模な社内実証を2024年3月から2年間の予定で行っています。複数拠点間で必要なエネルギー量を融通し合うことで、効率的な再生可能エネルギーの活用を実現します。これを社内実証により運用ノウハウなどを積み上げた後、E&F(Energy & Facility)ソリューションとしてさまざまな企業に提供するつもりです。こうした取り組みをさらに広げていく考えです。
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