山梨大学は、電気エネルギーで水素と酸素を得る、水電解デバイスの性能を向上させるアニオン膜を開発した。再生可能エネルギー電力などを使った、グリーン水素製造デバイスへの応用が期待される。
山梨大学は2024年10月28日、電気エネルギーで水素と酸素を得る、水電解デバイスの性能を向上させるアニオン膜(Quaternized Terphenylene Alkyl Fluorene、QTAF膜)を開発したと発表した。早稲田大学との共同研究による成果で、再生可能エネルギー電力などを使った、グリーン水素製造デバイスへの応用が期待される。
QTAF膜は、安定性が高いポリフェニレン型高分子を主骨格に用いて、側鎖にアンモニウム基、部分フッ素基を組み合わせる構造とした。ポリフェニレンの構成成分を疎水部と親水部に分割し、疎水部はベンゼン環が3つ連結したターフェニル構造として分子の剛直性を高めた。中央のベンゼン環に2つのトリフルオロメチル基を置換して、生成する高分子の分子量の増大と有機溶媒性への溶解性も与える設計とした。
その結果、分子量が75万以上の巨大分子が得られ、膜厚を薄くしても高い靭性と柔軟性を両立でき、水中での水酸化物イオン導電率は173mS/cmを達成した。疎水部の構造が親水部(アンモニウム基)の化学安定性にも寄与しており、800時間以上の加速アルカリ耐久性試験にも高い性能を示した。
また、QTAF膜を電解質として用いて、遷移金属合金(NiCoO)から構成される酸素発生電極触媒と組み合わせることで、高電流密度(2.0A/cm2)においても1.72Vの低いセル電圧で作動する水電解セルを開発できた。1000時間動かしても性能低下がほとんど起こらず、高い耐久性も確認した。
遷移金属系の酸素発生電極触媒と組み合わせた水電解セルは、電流密度1.0A/cm2においてセル電圧1.62V、同2.0A/cm2でもセル電圧1.72Vと高い能力を示した。長時間運転を模した耐久性試験でも、セル電圧の変化率は1.1μV/h(100〜1000時間)と小さかった。
QTAF膜を活用することで、既存のプロトン膜型水電解と同レベルの性能を低価格で達成する可能性がある。今後、触媒材料の高性能化や最適化、耐久性などを改善できる。さらに、セルを直列につなぐスタック化や大型化の研究を企業と共同で進め、早期の実装化を目指す。
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