ボルトは決められたトルクで締め付けられているので、その軸力によって応力が発生しています。この軸力は平均応力となります。連載第7回で、平均応力が作用しているときの疲労強度は小さくなると述べました。平均応力が引張強さより少しだけ小さかったときのことを想像してみてください。小さな応力振幅で破断することになりますね。疲労強度が小さくなる様子を図5に再掲します。
では、ボルトの場合の平均応力はどうかというと、図4から材料の降伏応力となります。図6に連載第7回で説明した疲労限度線図を再掲します。σTは真破断力でした。図6の破断するかしないかの限界線を式で表すと式1となります。
式1を切欠係数βで割ったものがボルトの疲労強度となり、式2です。
数値を代入しましょう。平均応力σmは、図4の結果から材料の降伏応力としました。強度区分12.9のボルトとステンレスボルト(A2-70)の疲労強度を表1に示します。強度区分12.9のボルトの疲労強度は56[MPa]となりました。参考文献[6]にはボルトの疲労強度が掲載されていますが、そこそこ一致していますし、ドイツのボルトの規格「VDI 2230 Blatt 1」による値と比較してもいい線いっています。
「切欠係数βはボルトの呼び径によらず4[-]で一定値、材料の疲労強度もボルトの呼び径によらず一定値」との仮定をしたので、ここで述べた方法ではどの呼び径でも同じ値となります。一方、参考文献[6]やVDI 2230 Blatt 1ではボルトの呼び径によって疲労強度が異なっており、細いボルトほど疲労強度が高くなっています。ここで述べた値はM24かM30に相当する値です。
表1の着色部で示した疲労強度は破断確率が50[%]なので、安全率を設定する必要があります。安全率を2[-]とすると、このときの信頼度は99.4[%]となります(参考文献[7])。つまり、破断確率は0.6[%]となります。
平均応力の考え方ですが、今回は降伏応力を採用しましたが公称応力で考えると降伏応力の70[%]となります。前者の方が疲労強度は低くなり、安全側の見積もりです。そして、前述した考え方による平均応力は図5のσmAに相当し、厳密な意味での平均応力ではありません。後の作業の煩雑さを考えてこのようにしました。厳密さを欠いた部分は安全率でカバーすることになります。
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