矢野経済研究所は、商用車の世界市場を調査し、その結果を発表した。電動商用車の世界販売台数は23年の105万台から35年には956万台に増加し、電動化比率は同5.8%から43.3%へ拡大する見込みだ。
矢野経済研究所は2024年10月10日、商用車の世界市場を調査し、その結果を発表した。電動商用車の世界販売台数は2023年の105万台から2035年には956万台に増加し、電動化比率は同5.8%から43.3%への拡大を見込む。
2023年における商用車の世界販売台数は1825万台となり、対前年11.7%増であった。その内、電動商用車の世界販売台数は105万7000台で、電動化比率は5.8%となった。
これまで、主に中国、欧州市場が電動商用車市場をけん引してきたが、普及促進策の規模縮小により、世界販売台数の成長率は減速している。しかし、貨物旅客輸送事業者の脱炭素化に寄与するZEV(Zero Emission Vechile)のBEV(電気自動車)およびFCV(燃料電池車)を中心に需要は伸びていくと見られ、電動商用車固有の課題に対応することで中長期的には販売台数は増加していく見込みだ。同課題には、販売価格が高いことや積載量の小ささ、航続距離の短さなどがあり、各国で対策が進められている。
世界的に脱炭素化に向けた取り組みが進められ、貨物旅客輸送事業者は、自社のScope1(自社が直接排出した温室効果ガスの排出量)、Scope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)のCO2削減のみならず、さまざまな企業のScope3(自社事業の活動に関連する他社の温室効果ガス排出量)削減に寄与する中心的な役割を担うと思われる。電動商用車は小型商用車から大型トラック、バスまでラインアップが充実化してきており、世界市場を中国や欧州がけん引することでBEVを中心に普及が進む見込みで、Aggressive予測で、電動商用車の世界販売台数は2035年には956万台、電動化比率は43.3%まで拡大すると予測する。
国別の動向を見ると、中国ではPHEV(プラグインハイブリッド車)、BEV、FCVから成るNEV(New Energy Vehicle:新エネルギー車)を中心に、電動商用車の販売台数は堅調に伸びていたが、補助金の縮小により成長率は減速傾向だ。トラックは小型トラックに対する燃費規制などでNEVへの転換を進め、バスは海外への輸出、海外でのノックダウン生産を促進し、国外市場にも道を開いている。
欧州では小型商用車を中心に電動化が進められてきたが、導入インセンティブの縮小により成長率は減速している。一方で、欧州の主要商用車メーカーは大型BEVトラックのラインアップを充実化し、代替燃料インフラ規則を基に急速充電器、水素ステーションの整備を行っている。大型トラックの電動化を促進するためOEMと政府が連携し、運輸部門のカーボンニュートラル化を目指した体制構築を進めていることから、販売台数は増加していくと予測する。
ただ、BEVは航続距離や積載率低下などの課題があるため、2020年代後半には高稼働、長距離輸送用途向けにFC(燃料電池)トラックのラインアップが増加する見込みだ。商用車ではBEV一辺倒ではなく、長距離輸送はFCV、代替燃料エンジン、近距離はBEVと適材適所が進むと思われる。
企業は、製品の製造時だけではなく、流通時におけるCO2の排出削減も求められている。BEVのみで自社の製品配送を行うという目標を掲げる企業もあり、欧州や日本、米国のカリフォルニア州ではScope3を公表する潮流から、貨物輸送事業者へ荷主がZEVの採用を強く要請する方向性が強くなると考えられる。貨物輸送事業者にとっては、荷主の脱炭素化戦略に寄与するという新たな企業価値を創造できる時代となっており、今後、ZEVを利用したグリーン物流などが重要な戦略になると考えられる。
旅客輸送事業者においては、ユーザー増加を目指した施策としてMaaS(Mobility as a Service)が注目されている。既に中国ではグリーンMaaSが始まっており、徒歩、自転車、バスなど環境負荷の低い移動手段を選んだ利用者には、カーボンクレジット制度で得た収益を還元する取り組みを進めている。
日本でもキャッシュレス決済と公共交通を連携させ、地域経済圏を作り上げる試みが見られる。移動×小売データに加え、ZEVを利用することでエネルギーデータも得られるため、これらデータを新製品やサービス開発に活用することにより利用客の増加を促進する体制構築が、今後、旅客輸送事業者において重要な戦略になると考えられるという。
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