続けて、遠藤氏は量産開発での活用として、「レベル3の落下解析までを習得(社内教育を卒業)したメンバーが各品目に1人いる状況を構築し、彼らが各品目でのCAE推進の中心的な役割である品目担当者を担っている」(遠藤氏)と取り組みの成果を述べる。
量産開発/設計段階でのCAE活用は、品目担当者の下、設計室内の解析担当者が実施する。修了した教育レベルによって、できる内容が明確になっているため、解析難易度と設計室内のリソース配分を基に担当者を決めて、解析を割り振る形を採用している。
教育は着実に進んではいるが、まだ解析担当者が潤沢にいるわけでないため、品目担当者が解析担当者として解析するケースも多々ある。特に落下解析の場合は、解析の難易度も高いため、レベル3まで習得している品目担当者が自ら解析を行うケースも増えているという。
構造や市場問題、過去の設計課題などに熟知した設計経験のある解析担当者が解析を実施することによって、これまで蓄積してきた知識や経験を生かした解析が行えるようになる。また、CAEの結果が仕様を満たさない場合も、対策案をスムーズに提案することができるなどのメリットもある。「これらの要素により、設計者自身が解析を行うことで、効果的な設計改善や問題の予防につなげることができている」(遠藤氏)。
設計者は解析専任者とは異なり、常に解析を実施しているわけではなく、ポカミスや勘違いによる設定ミスなどをしてしまう可能性もある。そこで、解析精度を維持するために、各設計室で実施した解析の結果に対し、遠藤氏のグループが解析設定や結果の判断に対してチェックを行っている。そして、その結果を設計者にフィーバックし、場合によっては、やり直しをしてもうこともあるという。
「一見すると大変そうな作業に思われるかもしれないが、図面の検図と同じで、設計に活用するための資料である以上は、ノーチェックで運用するわけにはいかない。また、何か問題が発生した際、それが解析者の設定ミスのせいにされてしまうと、解析担当者にとって大きな負担となってしまう。そういう状況を避ける意味でもチェックは重要だ」(遠藤氏)
量産開発にCAEを導入した結果、量産課題の削減につながっているという。具体的な効果として、遠藤氏は「CAEを活用した仮想試験を実施するまでは、試作や金型品などの実機が出来上がらないと試験を実施できなかった。CAEの導入によって、設計段階から課題を確認できるため、タイミングを前倒しにすることが可能となった。また、設計段階で見つかった課題をそこで解決できるため、実際にモノが出来上がってからの課題数を削減できた」と述べる。さらに、金型改造費も課題の事前解決が決め手となり、大幅に削減できるなどの効果が生まれているという。
講演では、教育だけでなく、品目担当者とのワーキンググループを構築するなど、その後の社内情報共有の仕組みについて紹介した他、適用事例として、若手エンジニアがCAEを活用して関数電卓の新構造に挑戦した事例や、デザイン検討段階でCAEを取り入れて新デザインを創り上げた電子ピアノ開発の事例にも触れた。
2020年に羽村技術センターで開始されたCAE教育は、2024年から山形カシオの一部の設計者に向けての展開も開始しているという。遠藤氏は「今後は、海外拠点の設計者に向けたCAE展開の可能性も探っていきたい。このように、CAE教育を広く展開することで、カシオ製品の設計品質の均一化につなげていきたい」と述べる。
さらに、「機構系の解析だけでなく、社内で実施しているアンテナの解析や樹脂流動解析といった各種解析において、3D CADを中心とした全社での連携構築を目指していきたい。製品設計全体でフロントローディング設計を構築することで、カシオの経営理念である『創造 貢献』をより体現した製品開発が可能になると考えている」と遠藤氏は今後の展望を語り、講演を締めくくった。
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