CAEを理解/実施/判断できる設計者を育てる カシオが推進する設計者CAE教育ITmedia Virtual EXPO 2024 夏 講演レポート(1/2 ページ)

「ITmedia Virtual EXPO 2024 夏」の基調講演の中から、カシオ計算機 遠藤将幸氏の講演「CASIOにおける設計者CAE方針と開発事例」の模様をダイジェストでお届けする。

» 2024年10月08日 06時00分 公開
[MONOist]

 アイティメディアは2024年8月27日〜9月27日までの約1カ月間、製造業を対象とした国内最大級のオンラインイベント「ITmedia Virtual EXPO 2024 夏」を開催した。本稿では、メカ設計領域の基調講演として実施された、カシオ計算機(以下、カシオ) 開発本部 機構開発統轄部 機構技術開発部 機構技術開発室リーダーの遠藤将幸氏による講演「CASIOにおける設計者CAE方針と開発事例」の模様をダイジェストでお届けする。

カシオにおけるCAEの取り組みとCAEグループのミッション

 カシオは、時計、教育、楽器の3大事業を柱とする世界的メーカーであり、製造および販社のグループ会社を合わせると38社にも上る。生産工場としては、マザー工場の山形カシオを筆頭に、中国に3拠点、タイに1拠点の合計5つの工場を構え、主要コンシューマー製品の組み立てなどを行っている。

 遠藤氏が所属する機構技術開発室では、

  • [数値化]感性や試験、評価の数値化を目指す業務
  • [CAE]CAEの技術開発や人材育成を目指す業務
  • [3Dデータ]全社での3D活用や管理システム構築を目指す業務

の3つにフォーカスし、これらを統合して、デジタル技術により最適な開発/量産プロセスを作ることを目的に活動している。遠藤氏は、この中のCAEに関する業務を主に担当している。

 同社では、2010年にデジタルカメラ部門でのCAE活用が始まった。この時は単独部門での活用にとどまり、専任者もいない状況だった。そして、2017年のデジタルカメラ事業からの撤退をきっかけに、2018年から他品目に対するCAE活用の展開が開始された。2020年から現体制となり、全品目に向けたCAE活用が進んでいる。

 遠藤氏が所属するCAE技術開発を実施しているグループ(CAEグループ)の主な業務は、研究開発、技術開発、設計活用、技術蓄積、人材育成、新価値創造の6つあり、CAEを活用した最適な開発/量産プロセスを確立し、品目を横断した横展開を目指している。

CAEを理解/実施/判断できる設計者を育てる!

 講演では、人材教育と設計活用(量産開発での活用)をメインに言及。まず、人材教育に関しては、従来の経験や勘に依存した設計のままでは設計品質にバラつきが生じてしまうことを懸念。このバラつきや、それに伴う手戻りなどを減らすためには、仮想試験を用いたフロントローディング設計が不可欠であり、設計者自身がCAEを「理解」して、「実施」でき、結果を「判断」し、より良いモノづくりにつなげられる「設計者CAE」の実現に向けた教育環境の構築を目指すことにした。目指すべきゴールは、CAEが設計者にとって必須のツール/知識であると位置付け、設計者の全てのメンバーがCAEを習得している状況だ。

 教育は、大きく3段階に分けて実施。レベル1は全設計者に向けたCAE教育、レベル2およびレベル3は、レベル1を修了した設計者の中から、自発的にCAEに取り組みたいと要望したメンバーや、設計室でCAEに関する適性が認められたメンバーを中心に展開する形で行われている。

 レベル1では習熟度を4段階に分割して線形解析を、レベル2とレベル3では習熟度を2段階に分け、それぞれ非線形解析(レベル2)、動解析(レベル3)を学ぶことができる体制とした。教育期間はそれぞれ4カ月を1タームとして、年間で3ターム実施している。また、1タームごとに6人のメンバーを教育することで、年間18人を教育する。

  • レベル3:動解析
  • レベル2:非線形解析
  • レベル1:線形解析
カシオ計算機 開発本部 機構開発統轄部 機構技術開発部 機構技術開発室リーダーの遠藤将幸氏 カシオ計算機 開発本部 機構開発統轄部 機構技術開発部 機構技術開発室リーダーの遠藤将幸氏 出所:カシオ計算機

 教育手順は、最初にセミナーテキストを用いた操作手順の自習に取り組んでもらう。続いて、社内の過去の解析モデルを使った実践練習を行う。そして、学んだ内容をきちんと理解できたかを確認するためのテストを実施。このテストでは、設計課題に基づき解析設定を行うが、過去の量産設計で発生した課題をベースにしており、実践に近いシチュエーションでテストが実施される。最後に、テストの内容に関してのディスカッションを実施する。「最後のディスカッションが最も重要で、なぜその設定にしたのか、解析結果をどう読み解いたのかを中心に議論を進めていき、ここで解析に関する重要な考え方やノウハウを伝えるようにしている」(遠藤氏)。そして、テストが終了したメンバーは次のレベルに進むという流れで、この手順を繰り返す形で教育を進めているという。

 実績としては、2020年から設計者向けのCAE教育制度を構築、展開しており、現在では全設計者の約半数がレベル1の静解析までの教育を修了。今後は設計者全員がレベル1まで習得することを目標に掲げている。

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