米国の医療データ標準化で広がる2次利用とAI海外医療技術トレンド(111)(2/4 ページ)

» 2024年09月13日 08時00分 公開
[笹原英司MONOist]

医療データ2次利用を支える継続的なインセンティブ付与施策

 ところで、本連載第44回で触れたように、医療のIT化やデータ相互運用性の標準化に欠かせないものに、直接的/間接的なインセンティブがある。

 前述のHTI-1最終規則の「医療ITの活用と相互運用性の促進」にある「ONC医療IT認証プログラム」は、同じHHS傘下のメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)が、オバマ政権時代の「電子健康記録インセンティブ(Meaningful Use)」プログラム(関連情報)に代わる仕組みとして、トランプ政権時代から推進してきた「相互運用性の促進(Promoting Interoperability)」プログラム(関連情報)をサポートする役割を担っている。相互運用性の促進プログラムに基づくCMSの各種インセンティブを受けるためには、このONC医療IT認証を受けた製品/サービスを利用することが前提条件となってきた。

 また、ONC医療IT認証プログラムは、医療データの2次利用に関連して、同じHHS傘下のFDAの「臨床試験における電子健康記録(EHR)データ利用 - 業界向けガイダンス」(2018年7月19日、関連情報)で、医薬品/医療機器の臨床試験におけるEHRデータ利用のベストプラクティスとして参照されるなど、リアルワールドデータ(RWD)/リアルワールドエビデンス (RWE)におけるデータ相互運用性標準化を促進するインセンティブとしても機能してきた。

 直近では2024年7月25日、FDAが「リアルワールドデータ:医薬品・生物学的製品の規制上の意思決定を支援するための電子健康記録と医療請求データの評価 - 業界向けガイダンス」を公表している(関連情報)。

 このような背景を受けて米国HL7協会は2020年8月から、旧ONC(現ASTP/ONC)やFDAなどと連携し、HL7 FHIRアクセラレータープログラム(関連情報)の一環として、患者、政府機関、研究機関、保険者、医療ITベンダー、医薬品/医療機器企業など、さまざまなステークホルダー間の橋渡しをするプロジェクトVulcan(関連情報)を展開している。Vulcanは、国際的な医療データ交換の標準規格であるLH7 FHIRの採用を通じて、臨床研究と臨床医療の統合にフォーカスしたユーザーコミュニティーに仕えることをミッションとしており、日本の政府機関や医療研究機関、民間企業も参画している(関連情報PDF)。

 図3は、このプロジェクトVulcanにおいて実施するユースケース評価の優先順位付けを示したものである。

図3 図3 HL7のプロジェクトVulcanにおけるユースケース評価の優先順位付け(2020年8月17日)[クリックで拡大] 出所:HL7 International「HL7 Launches Project Vulcan FHIR Accelerator Program」(2020年8月17日)を基にヘルスケアクラウド研究会作成

 図3では、縦軸に影響度(低/中/高)、横軸に難易度(低/中/高)を設定して、各ユースケースの評価を優先順位付けしている。【影響度:中、難易度:中】の領域に「バイタルサイン」「患者背景」「機器登録」「機器識別」「試験スケジュール(SoA)」「シングルIRB」「EHRの表現型」が、【影響度:高、難易度:高】の領域に「RWD」「EHRの有害事象情報」「分散型臨床試験(DCT)」「米国相互運用性向けコアデータ(USCDI)」が挙げられている。

 米国で医療データ2次利用関連事業を展開する医療機器/デジタルヘルス機器企業は、影響度/難易度が最も高いRWD/RWEの領域まで、機器生成データの2次利用拡大を図る必要がある。今後は、FDAの動向と並行して、ONC医療IT認証プログラムのデータ相互運用性や品質保証、HIPAAセキュリティ/プライバシー規則順守などに関する要求事項を継続的にウォッチする必要がある。

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