結局Armは2020年に旧トレジャーデータの部門をPelionという社名で丸ごと分社化したが、この際にMbed OSはArmに残されたままとなった。要するに、新生Pelionは別にMbedがなくても問題なく利用できることが再確認されてしまった格好であり、この時点でMbed OSは「いらない子」となってしまったわけだ。この時点で、Mbed OSの命運はほぼ決まっていたような気もしなくはない。
2022年12月にMbed Online Compilerはサポートが終了し、後継としてKeil Studio Cloudがやはりオンラインで提供されている。ただ、そのKeil Studio Cloudを利用するにはArmのMbed Cloudのアカウントを連動させる必要がある現状や、“it will no longer be possible to build projects in our online tools”という表現を見る限り、このKeil Studio Cloudも2026年7月以降は利用できなくなるものと思われる。
それでもどうしても使いたいというのであれば、オフラインで利用できるMbed CLIが提供されているので、これを今のうちにダウンロードしておくことをお勧めしたい。こちらは恐らく2026年7月以降も利用可能である。
ちなみに、冒頭に紹介したMbed OSのEOLのアナウンスにおけるFAQによれば、以下のような代替ソリューションが用意されているようだ。
さらに、もともとの評価ボードであるmbed LPC1768の代替としては、Arduino/micro:bit/Raspberry Pi Picoなどを、Mbed OSの代替としては先述のCMSIS RTXの他、Free RTOSやZephyrなどが推奨されている。
ちなみに、mbedをArmと一緒に立ち上げたパートナーであるNXPのmbed対応プラットフォームのWebサイトを見ても、既に対応製品として示されているのは旧Freescale由来となるKinetisベースのMCUを搭載した開発ボードだけである。ただしNXPは、旧NXP由来のLPCシリーズと、旧Freescale由来のKinetisシリーズという2種類のMCUを統合する形で、新たなMCUとなるMCXシリーズを2022年に発表しており、こちらは順次製品が投入されつつある。
このMCXシリーズではMbedへの対応が全く考慮されていない、というあたりがNXPにおけるMbedやMbed OSの位置付けを如実に示していると言ってもいいだろう。他の主要なMCUメーカーも同じで、基本もうMbedプラットフォームは過去製品向けのソリューションに位置付けられている。
Mbed OSを、古いCortex-MベースMCUの評価ボード用に利用するのは悪くないかもしれない(開発環境だけは先述したようにMbed CLIを早めに入手しておくことをお勧めする)が、それ以上の展開はこの先望めないだろう。本連載で紹介したさまざまなRTOSと同様に、Mbed OSも淘汰(とうた)の波に飲まれて消える運命をたどるようだ。
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