「1Dモデリング」に関する連載。連載第33回では「フローで考える熱のモデリング(その3)」と題し、ドライヤーを例に熱のモデリングを行う。
前々回と前回で、熱のモデリングに関する理論や基本事項について学んだ。
今回は、熱応用製品の代表格といえる「ドライヤー」をモチーフに、熱のモデリングを行う。最初にドライヤーの仕組みを知り、次にその動作フローを理解し、以上に基づいてドライヤーの熱モデルを作成する。モデル作成に当たっては、パラメータをどう決定するかが重要で、前々回、前回の知見を基に各要素の熱コンダクタンス、熱容量を決定する。そして、以上をベースに解析を行う。解析方法は「Modelica」でテキスト表現する方法と、Modelica標準ライブラリ(MSL)を用いる方法を示す。当然のことながら、いずれの方法でも解析結果は同じである。最後に結果の評価を行う。
まず、実際のドライヤーを分解した写真に、各部分の機能を追記した図を示す(図1)。ドライヤーの電源を入れるとヒーターが熱くなり、ファンが回転して、冷風が熱いヒーターを通過することで熱風になる。熱風は髪を乾かした後、室内に排気され、室温となる。一方、ヒーターの熱は筐体に伝わり、その熱は筐体を介して大気に開放される。
図2に、ドライヤーの電源を入れてから熱風が出るまでの動作フローを示す。
各フェーズを詳しく見ていこう。
(1)電源を入れると、ヒーターに電流iが流れ、ヒーターの電気抵抗をRとすると、ヒーターにはジュール熱P=i2R[W]が発生する。
(2)ジュール熱P=i2R[W]が、ドライヤーの熱源Q[W]になるものとする(損失はないものとする)。すなわち、Q=i2R[W]となる。
(3)一方、モーターがファンを動かし、風量qf[m3/s]、温度Tr[℃]の冷風を発生させる。ファン流の風速をuf[m/s]、流路面積をAf[m2]とすると、qf=ufAfとなる。
(4)熱源Qの大半はヒーターの温度上昇に寄与する。このとき、ヒーターの熱容量Chはヒーターの密度ρh[kg/m3]、比熱ch[J/kg・℃]、体積Vh[m3]から、Ch=ρhchVh[J/℃]となる。
(5)熱せられたヒーター温度T1[℃]と、風量q[m3/s]、温度Tr[℃]の冷風との間で熱交換が行われ、冷風は温度T2[℃]の熱風となる。ヒーターと冷風間は強制対流熱伝達となり、この際の熱伝達率をh[W/m2℃]、伝熱面積をA[m2]とすると、熱コンダクタンスはG1=hA[W/℃]となる。熱交換の現象は、
で表現され、今対象としているのは一次元流れなので、
となる。風速が十分に大きい場合には、熱伝導は無視できるので、
となり、冷風の温度上昇をΔT[℃]とすると、Qf=qfρfcfΔT[W]となる。ここで、H≡qfρfcf[W/℃]とする。Hは熱コンダクタンスGと単位は同じであるが意味合いは異なる。Hは単位時間当たり単位温度当たり流れに伝わるエネルギー(エンタルピー)である。温度T2の熱風は、通常は拡散して室内温度Trに戻る。
(6)ヒーターは筐体に囲まれていて、両者は接触していないが、ヒーター温度が高温となるために、ヒーターと筐体内壁の間には放射伝熱が発生する。ヒーターが筐体に囲まれているので、この間の伝熱量はQr=Arεσ(T14−T34)と置くことができる。Arはヒーターの表面積、T1はヒーター温度、T3は筐体内壁温度である。
(7)筐体内壁に伝わった熱は、熱伝導により筐体内壁から外壁に向かって伝わる。筐体外壁では厳密には、筐体外壁温度と室温との間で自然対流熱伝達が発生するが、経験的に筐体外壁温度は室温とさほど変わらないことを知っているため、ここでは筐体外壁温度は室温とする。
以上から、ドライヤーの熱のフローモデルは図3のように表現できる。Qin、G1、G2、G3、H、C1、C2、C3、Trが定義すべきパラメータ、T1、T2、T3、Q1、Q2、Q3、Q1c、Q2c、Q3cが求めたい状態量(未知数)である。
図3のモデルを式で表現すると以下となる。
熱の流れの連続性(電流則)より、
となる。各要素の熱コンダクタンスに関しては、
となる。ヒーターの熱容量C1[J/K]、ファン流のエンタルピーH[W/K]、筐体の熱容量C3[J/K]に関しては、
となる。
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