これまでに、スマート工場の5つの成功要素のうち、「運用効率と生産性向上」「設備効率ためのデータ管理」「インフラとサイバーセキュリティ」「エネルギー管理とサステナビリティ」までを読み解いてきた。こうした取り組みは、すでにさまざまな企業で対策が取られてきたのだが、一方で現場での部分的なアプローチにとどまっているケースも多いように見受けられる。
いわゆる部分最適からまだ脱却できていない中で、DXやスマート工場のトライアルを進めているような状況だ。何より、経営責任者の理解がなければ、これらの取り組みは進められないし、仮に進んだとしても有益な効果が得られない。すなわち、スマート工場の成功要素にとってもっとも重要なのは、「ガバナンスとチェンジマネジメント」であると考えている。シュナイダーエレクトリックを例に、その理由を紹介したい。
シュナイダーエレクトリックでは2017年に、世界中で所有している約200の自社工場をスマート工場化するプロジェクトが立ち上がった。その時点で、「ガバナンスとチェンジマネジメント」を遂行する組織作りに取り組んでおり、トップ自らがスマート工場の進捗を確認しながらプロジェクトを推進してきた。
例えば、マネジメント側主導でスマート化に関する評価指標を「シュナイダー・パフォーマンス・システム」として明確に数値化し、拠点ごとにスコアを算出できる体制としてシステム化している。実際に、日本にある物流拠点も、世界全体で同じ指標によって評価されており、スコアを上げるために次にどういったアクションに取り組めば良いかがはっきりと判断できる。
シュナイダーが約7年における取り組みによって、200以上の工場や物流拠点をスマート化できたのは、何よりもこうしたトップダウンの体制でプロジェクトに挑めたことが大きい。
私が日本のお客さまを訪問した際に違和感を覚えるのは、社内に多数のDXチームがあることだ。それらのチーム間で役割分担されており、違う部署に行くと別のDX担当者が出てきて話がつながっていなかったりする。結局の所、DXやスマート工場への取り組みも日本式のモノづくりの改善活動と同じようなアプローチで、みんなが草の根活動としてやっていたりするのだ。
スマート工場化を成功させるには、強力なトップダウンが必要だ。「スマート工場というものはこういうものである」という明確な定義に基づき、いつまでに実現させるのかなどの統一されたミッションが重要になる。
経営者の方が、「うちにはスマート工場のプロジェクトを進められる人材がいない」と語られることも多い。だが、「なによりもあなた自身がプロジェクトをリードすることこそが、成功への近道だ」ということを、この連載を終えるメッセージとして最後にお伝えしておきたい。
シュナイダーエレクトリック
インダストリー事業部 バイスプレジデント
角田 裕也
1999年同志社大学卒業後、キーエンスに入社。精密測定機器セールス部門のリーダー、マネジャーを務め、2009年にシーメンス入社後はモーションコントロールソリューション、IoTソリューション部門の部門長などを歴任。その後、アクセンチュアを経て、2020年にシュナイダーエレクトリック入社、現在はインダストリアルオートメーション事業部取締役バイスプレジデントとして同部門を統括。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.