ある部品、例えばボルトが疲労破断したとしましょう。このとき「疲労限度は引張強さに比例するのだから、引張強さの大きなボルトに変更しよう」との発想が浮かびます。また、ボルトではないある部品が疲労破断したら「他の部品との兼ね合いがあるから、形状を変更しないで材質を焼き入れ鋼にしよう」と考えます。しかし、強度区分12.9のボルトを使ってもボルトが破断することがあります。この件について少し考察してみましょう。図3を再掲します。
疲労破断対策として、SS400材から合金鋼を焼き入れ処理したものに変えたとしましょう。変更前後の応力集中を考慮した疲労強度を比較したものを表2に示します。
残念でした。応力集中を考慮した疲労強度は1.38倍にしかなりませんでした。実は、この例は筆者が言いたいことを強調するために少し意地悪な数値を使った結果ですが、材質変更、特に焼き入れ鋼に変更するときは注意が必要です。
安全率を2[-]として説明してきましたが、「うちの会社の設計基準では安全率が8[-]でかなり違う」と思われた読者もいるかと思います。次回は、安全率について取り上げます。 (次回へ続く)
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
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