リチウムイオン二次電池のリサイクル時の発熱リスクを減らす新たな電池不活性化技術リサイクルニュース

豊田中央研究所は、リチウムイオン二次電池のリサイクル時のリスクを低減する、新たな電池不活性化技術「iSleepTM」を開発した。

» 2024年06月28日 08時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 豊田中央研究所は2024年6月26日、リチウムイオン二次電池(LiB)のリサイクル時のリスクを低減する、新たな電池不活性化技術「iSleepTM」を開発したと発表した。廃棄LiB内に、電池内部に存在する酸化還元種(今回の研究ではフェノチアジン)を正極と負極の間で酸化と還元を繰り返させるへレドックスシャトル剤(RS剤)を添加し、残存電圧を0V近くまで放電させる技術で、LiBの解体/破砕時における発熱などのリスク低減に貢献する。

Li資源の効率的な回収にも貢献

 今回の研究では、フェノチアジンという有機化合物がRS剤として機能し、LiBの内部短絡を誘発することを発見した。RS剤は、LiBの正極に電子を渡して酸化され、電解液中を移動して、LiB の負極から電子を受け取り還元される、という一連のシャトル反応を繰り返し行う性質がある。このRS剤をLiBに添加することで、電池内部での負極から正極への電子の移動、つまり内部短絡を誘発することが可能になる。

廃棄LiBの不活性化手法の比較。上:iSleep(RS剤の添加)、下:従来手法(正極と負極の外部端子を導通させ放電) 廃棄LiBの不活性化手法の比較。上:iSleep(RS剤の添加)、下:従来手法(正極と負極の外部端子を導通させ放電)[クリックで拡大] 出所:豊田中央研究所

 同研究では、原理検証のため、4.1Vまで充電した試験用LiBに小さな穴を開け、RS剤を含む溶液を添加した。その後、セル容量の10%に相当するRS剤を添加したところ、74時間かけて電圧が0.1Vまで低下することが分かった。また、一連の反応の中で、負極表面に析出したLi金属がLiイオンとして溶け出し、正極に取り込まれることを実験的に確認した。

RS剤の添加による電池の不活性化メカニズム。図中のRS(O)、RS(r)はそれぞれRSの酸化状態、還元状態を示す。 RS剤の添加による電池の不活性化メカニズム。図中のRS(O)、RS(r)はそれぞれRSの酸化状態、還元状態を示す。[クリックで拡大] 出所:豊田中央研究所
左:RS剤添加後の試験用LiBの電圧変化。右:RS剤による放電前後の試験用LiBの負極表面の様子。 左:RS剤添加後の試験用LiBの電圧変化。右:RS剤による放電前後の試験用LiBの負極表面の様子。[クリックで拡大] 出所:豊田中央研究所

 同研究で開発したRS剤を用いた不活性化技術は、内部短絡を引き起こすことでLiBを放電させるため、断線したLiBでも放電が促進されることで、リサイクル時のリスクを低減することが期待される。また、析出したLi金属がイオン化して正極に取り込まれることで、Li金属と空気中の水分との接触を抑制することに貢献するだけでなく、Li資源の効率的な回収も期待できる。そのため、同技術は、持続可能な資源の循環を促進し、電池循環システムの実現に貢献する。

電池循環システムのイメージ 電池循環システムのイメージ[クリックで拡大] 出所:豊田中央研究所

開発の背景

 国内外では、電動化の加速や再生可能エネルギーの普及に伴い、LiBの需要が急速に拡大している。一方、現在広く使われているLiBには貴重な金属資源が多く含まれている他、材料調達時のCO2排出量が多いことから、廃棄LiBのリサイクルプロセスの確立は重要な課題となっている。

 LIBのリサイクルプロセスは、乾式精錬と湿式精錬に大別される。現状では加熱により不活性化を行う乾式精錬が一般的だが、環境負荷の観点から加熱しない湿式精錬が求められている。

 湿式精錬では、LiBの解体/破砕を伴うため、作業時のリスクを低減することが重要だ。例えば、電圧が残った状態でLiBを破砕すると、LiBが発熱することがある。さらに、LiB内部でLiが金属として析出している場合、解体/破砕時にLi金属が空気中の水分と接触して激しく反応する恐れがある。こうしたリスクを減らすためには、放電やLi金属の除去といった前処理を行い、廃棄LiBを不活性化することが必要だ。

 しかし、従来の不活性化方法の多くは、電池の外部端子を介して放電するもので、電気回路が断線している電池やLi金属が析出した電池には適用が困難という問題点があった。そこで豊田中央研究所の研究チームは、電池の内部短絡に着目し、従来法の欠点を克服する新たな不活性化方法を開発した。

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