産業技術総合研究所は、二硫化モリブデンのナノリボンを一方向かつ高密度に合成する手法を開発した。同ナノリボンは高い電気特性を有し、エッジは中心部に比べて100倍近い水素発生反応の触媒活性を示す。
産業技術総合研究所(産総研)は2025年1月9日、二硫化モリブデン(MoS2)の極細構造(ナノリボン)を一方向かつ高密度に合成する手法を開発したと発表した。九州大学らとの共同研究による成果だ。
開発した手法は、世界的に広く利用されている化学蒸着法(CVD法)を応用したものだ。酸化モリブデン(MoO3)と硫黄(S)を、1100℃のサファイア基板上でアルゴンガスを流しながら反応させたところ、S-Mo-Sの原子3個分の厚みの単層MoS2が、数十nmから数百nmの幅で合成できた。サファイア表面の異方的な原子配列により、一方向に成長したと考えられる。
MoS2ナノリボンのエッジは、中心部に比べ100倍近い水素発生反応(HER)の触媒活性を示し、単位面積当たりのHER活性は、面積に対してエッジの割合が大きい細いリボンで高くなった。
また、シリコン基板に転写して作製したデバイスで電気特性を評価したところ、トランジスタ動作を確認できた。電子移動度は通常のMoS2シートと同等の44cm2/Vsで、半導体のチャンネルとして利用可能な高い電気特性を有する。極低温下のデバイス測定結果からは、低次元性と高い結晶性を備えていることが判明した。
MoS2などの遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)と呼ばれる二次元の半導体シートは、安価で、白金に変わるHERの触媒として期待されている。しかし、MoS2ナノリボンの従来の合成は、非効率でエッジも滑らかでなく、厚さや幅が均一で欠陥のないナノリボンを作製するのは困難だった。
研究グループは、MoS2のほか、二硫化タングステン(WS2)のナノリボンや、MoS2の周囲にWS2を合成したヘテロ構造ナノリボンの合成にも成功している。今後、ナノリボンの集積化や複数のリボンを組み合わせた構造体の作成を通じて、新たな物性を開発していく。
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