出荷元の工場で設備を組み立てて、動作確認をした後、そのままの姿で現地(客先の工場)に輸送できるのが最も理想的です。ですが、生産ライン規模になってくると、その状態のままではコンテナに入らないため、出荷前に分解し、客先工場内で再組み立てをする必要があります。
そして、この分解/再組み立てを必要とする規模の装置において、「それが容易に行える構造になっているか」が設計者の腕の見せ所でもあります。例えば、
といった工夫です。
余談ですが、筆者が過去に設計した装置では“組み立て誤差が大きく出る”ような箇所で分解せざるを得ない構造にしてしまい、さらに分解前にケガキするのを忘れてしまったために、客先工場での組み立て調整作業に多大な時間を要してしまった……という経験があります。
ちなみに、ウイングコンテナに納まらない場合には特殊車両を使えば輸送できることもあります。しかし、特殊車両で輸送するためには、
など、さまざまな手続きや制限が付随します(詳細は、国土交通省などの資料をご覧ください)。もちろん、これらにひも付いて、輸送の金額はかなり上がっていきます。筆者の経験上ですが、特殊車両による輸送を1日お願いするだけで1台当たり数十万円単位の費用がかかります。また、近年は人手不足や残業規制などにより、ドライバーがなかなか見つからないケースもあるとのことです。
出荷元工場の環境と、客先工場の環境に差がある場合は要注意です。例えば、それぞれの工場で寒暖差がある場合、熱膨張係数の差によって装置に不具合が生じることがあります。
筆者は過去の設計で、長さ1mを超えるようなPOM(樹脂)を製缶フレームにボルトで固定するような構造を採用したことがあるのですが、客先工場内の温度が想像以上に高かったためPOM材が熱膨張してしまい、現地でボルトが入らなかった……という経験があります。また、夏と冬との寒暖差によってもPOM材は膨張/収縮しますが、その寸法変化を吸収できるような構造になっていなかったため、POM材に亀裂が生じてしまいました。このときは、POM材のキリ穴の箇所を長孔にすることで対策しました。
さらに、設計仲間からこんな話を聞いたことがあります。客先の工場に設備を納品した際、「まだ据え付けられるような状態じゃない」という理由で、納品した設備を、特に空調などが完備されていない倉庫に保管することになったというのです。そして、そのまま冬に突入したある日のこと、客先の工場から「設備が動かない!」という連絡が入ったため現地へ向かってみると、設備内のあらゆる箇所に結露が発生していたそうです。このような寒暖差に起因する問題は、非常によく聞くトラブルの一つです。
他には、粉じんに起因するトラブルもあります。比較的キレイな環境が保たれた出荷元の工場に対し、常に粉じんが舞っていたり、ワークにたくさん泥が付いていたりするような環境の客先工場に設備を納品したときのことです。設備を設計する際に、あらかじめ顧客から粉じんがあることは聞いており、対策用のカバーなどの設計もしていたのですが、実際にはこちらの予想を上回る粉じんの量だったのです。粉じんや泥があるような環境ですと、例えばベアリングの間にかみ込んで摩耗してしまったり、光電センサーが誤検知してしまったりなどの不具合が生じます。
図面の承認は既に客先からもらっているはずですし、納品の段階はスケジュールも予算も厳しい状況です。設備メーカーとしては「日常的に清掃を行っていただけませんか?」とお願いしたい気持ちでいっぱいです。
しかし、実際このようなケースでは「清掃する範囲が広過ぎるのでそれはやりたくない」「そもそも機械を清掃するという習慣がないし、今後もやりたくない」と言われることがほとんどで、客先の工場で急きょ新たな対策品(カバーなど)を設計する羽目に……。
このような場合は、やはり設計者自らが客先の工場に行かないと状況がつかめないことも多いため、筆者としてはぜひ設計者も設備の据え付けに立ち会ってほしいなと思います。 (次回へ続く)
りびぃ
「ものづくりのススメ」サイト運営者
2015年、大手設備メーカーの機械設計職に従事。2020年にベンチャーの設備メーカーで機械設計職に従事するとともに、同年から副業として機械設計のための学習ブログ「ものづくりのススメ」の運営をスタートさせる。2022年から機械設計会社で設計職を担当している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.