ルネサス エレクトロニクスは、車載ソフトウェアを継続的かつ安全にアップデートできる次世代自動車のSDV(ソフトウェア定義車両)を開発するためのプラットフォーム「R-Car Open Access(RoX)」の提供を開始すると発表した。
ルネサス エレクトロニクスは2024年6月20日、車載ソフトウェアを継続的かつ安全にアップデートできる次世代自動車のSDV(ソフトウェア定義車両)を開発するためのプラットフォーム「R-Car Open Access(RoX)」の提供を開始すると発表した。ルネサスの車載SoC「R-Carシリーズ」や次世代車載マイコンなどに組み込む車載ソフトウェアの開発プラットフォームであり、ADAS(先進運転支援システム)、IVI(車載インフォテインメント)、ゲートウェイアプリケーションに共通して適用できる。
これまでルネサスは、同社の車載SoCや車載マイコンに対応するソフトウェア開発環境として、2022年4月発表の「バーチャル開発環境」や2023年12月発表の「AI Workbench」などを投入してきた。今回発表したRoXは、これらを統合するとともに新たな機能を追加することで、SDVのソフトウェア開発をより短期間で進められるようにプラットフォーム化したものだ。
RoXは、ルネサス製車載SoCや車載マイコンを搭載する評価基板を中核としたハードウェアレイヤーをベースに、ソフトウェアレイヤー、ツールレイヤーに分かれている。
ソフトウェアレイヤーは、オープンソースソフトウェアを中核にオープンかつ手軽にアクセスできることをコンセプトにしたソフトウェアパッケージの「RoX Whitebox」と、量産車にも搭載可能な商用ソフトウェアやAUTOSAR準拠のソフトウェアをベースとする「RoX Licensed」から構成されている。RoX Whiteboxは、Android Automotive OS、FreeRTOS、Linux、Xen、Zephyr RTOSなどロイヤルティーフリーのOS/ハイパーバイザーと、アプリケーション別に用意したレファレンスソフトウェアが含まれている。一方、RoX Licensedは、BlackBerryの「QNX」やRed Hatの車載Linuxである「Red Hat In-Vehicle Operating System」といった商用ソフトウェア、Vector InformatikのAUTOSAR関連ソフトウェア、FreeRTOSをベースに機能安全規格に準拠したWITTENSTEINの「SAFERTOS」を利用できる。
RoX Whitebox、RoX Licensedともに、ルネサスの車載SoCや車載マイコン上で動作するよう事前にテストされている。このため、ルネサス製品を用いた車載ソフトウェアの開発期間を大幅に短縮できる。加えて、STRADVISIONのADAS向け画像認識AIソリューション「SVNet」による事前検証済みソフトウェアスタックや、CanderaのIVI向けHMI設計ツール「CGI Studio」なども利用可能としている。
ツールレイヤーに組み込まれているのが、2022年4月発表のバーチャル開発環境であり、これによってハードウェアのサンプルを入手する前からソフトウェア開発を開始することができる。開発したソフトウェアに対してシミュレーターやデバッグツールで動作検証を行ってから、実際の車載SoCや車載マイコンに実装すれば手戻りのない開発を実現可能になる。さらに、ASTC(Australian Semiconductor Technology Company)の「VLAB VDM」やシノプシスの「Virtualizer Development Kit(VDK)」などパートナー企業のツールや開発環境にも対応しており、シミュレーション速度や機能、ユースケースに幅広く対応するという。
ADASやIVIをはじめ自動車にもAIが活用されるようになっている。車載システム向けのAIソフトウェア開発をシームレスかつエンドツーエンドに行えるようにするのがAI Workbenchだ。AI Workbenchにより、開発者はクラウド上でモデルを検証/最適化し、仮想開発環境やルネサスの評価ボード上でAIアプリケーションをテストすることができる。現行のR-Carから次世代以降のR-Carの至るまで、世代を超えてAIの迅速な展開をサポートするために、幅広いAIモデル、自動化されたパイプラインおよびハイブリッドコンパイラ(HyCo)が利用できるようになっている。
2023年12月発表時点では、AI Workbenchは「Microsoft Azure」でのみ利用可能だったが、今回のRoXの発表と併せて「AWS」でも利用できるようになった。なお、R-CarのSDK(ソフトウェア開発キット)は、AWSのクラウド環境でコンテナ化されているため、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせを即座にシミュレートしてテストを行い、R-Carのデバイス上でシームレスに実行されるAIアプリケーションを展開できるとしている。
なお、RoXは、現行世代のR-Carや、今後の投入が計画されている「R-Car Gen 5」の車載SoCや車載マイコン、さらなる将来のデバイス向けに設計されている。なお。R-Car Gen 5は、ArmのCPUコアをベースにした新しい統一ハードウェアアーキテクチャを採用する予定だ。RoXの投入によってSDVに対応した車載ソフトウェアの開発のハードルを大きく下げることで、R-Car Gen 5の採用拡大につなげたい考えだ。
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