富士通は、企業が膨大なデータを基に生成AIを活用するための環境や仕組みを提供する「エンタープライズ生成AIフレームワーク」を提供開始する。
富士通は2024年6月4日、企業が膨大なデータを基に生成AIを活用するための環境や仕組みを提供する「エンタープライズ生成AIフレームワーク」のサービスを同年7月から開始すると発表した。AIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」のラインアップに加える形で提供する。本稿では、同日に開催した生成AI(人工知能)などに関する同社の研究開発説明会の内容を基に紹介する。
富士通は現在、大規模言語モデル(LLM)を活用した企業向けシステムの研究開発を推進している。同社はこれまでに自社の従業員約12万4000人を対象に生成AIの利用環境を整備する他、Fujitsu Kozuchi上での対話型生成AIシステムの提供などを通じて、エンタープライズ用途での生成AI活用の知見を蓄積してきた。スーパーコンピュータ「富岳」を用いて開発した「Fugaku-LLM」の共同研究も行っている。
今回のエンタープライズ生成AIフレームワークは、こうした富士通の取り組みを通じて蓄積してきた知見を基に構築したものだ。ユーザーからのクエリ(要求)に対して最適なデータをひも付けた上で、適したAIモデルの選定、自動生成を行い、さらに法令や規則への準拠を確認し、ハルシネーション(幻覚)のリスクを低減した上で回答を出力することが可能になる。クラウドサービス経由で提供される一般的な生成AIサービスと比較して、より企業の業務や制約条件に個別に適した形の「特化型生成AI」の市場開拓を目指す。
エンタープライズ生成AIフレームワークは、生成AI導入時に生じやすい企業の課題解決を目指す技術群で構成されている。具体的には、「ナレッジグラフ拡張RAG(Retrieval-Augmented Generation)」「生成AI混合技術」「生成AI監査技術」の3つだ。
ナレッジグラフ拡張RAGは、企業内に存在する製品マニュアルや設備機器の稼働ログ、監視データなどのデータをナレッジグラフ化した上で、ユーザーのクエリに応じて最適なナレッジを抽出して生成AIの推論を支援する技術である。
現在、RAGは企業が生成AIを自社内で活用する上で重要な技術だと見なされている。しかし、富士通 富士通研究所人工知能研究所所長の園田俊浩氏は「データ規模が大きくなると単語間の関係性を踏まえたり、ドキュメント全体を俯瞰した回答を生成することが難しくなる」と説明する。
一方で、RAGにナレッジグラフを組み合わせれば、大量のデータ内での単語間の関係性を発見しやすくなるという利点がある。富士通はこれまでにも大規模データを対象としたナレッジグラフの研究に取り組んでおり、アドバンテージがある。現時点で富士通は、1000万文字以上のドキュメントデータの高精度な分析に対応できるとしている。なお、「現実的な条件での検証はまだ難しいが、理論上は対応可能なデータ規模に制限はないと見込んでいる」(富士通担当者)という。
ナレッジグラフ拡張RAGは、ユーザーからのクエリに対して最適なスキーマを設定して、ナレッジグラフから必要なデータだけを抽出する仕組みだ。これによって、「通常のRAGと比較して、生成AIに提供するデータ量を約4分の1に抑えつつ、正確な回答を導き出せることを確認した」(園田氏)という。
富士通のナレッジグラフ拡張RAGの技術は、質問応答の精度を測定するベンチマーク「HotpotQA」で「世界1位」(同社)のスコアを獲得した実績がある。園田氏は「(大規模データを扱いつつ高精度性も持つという点で)世界でもトップの技術を有している」と説明する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.