さらに、水中ドローンを扱える人材を育成したとして、その人材の受け入れ先も十分でないという。人材を受け入れる産業を育てる必要があるわけだが、そのためには、水中ドローンに対する需要とその需要に応えるサービスを用意し、それらのサービスの成果で組織や企業が利益を得て、水中ドローンとそのオペレーターに投資するといった“好循環”を構築したいと大手山氏は自らの構想を語っている。
その需要の直近における具体的な例として大手山氏は「インフラの水中部分の点検」を挙げる。「狭小部などのダイバーが入れなかった部分での作業を水中ドローンが担う産業もあるのではないか」(大手山氏)
「水中ドローンが担う産業」の具体的な例としては、洋上風力発電や海洋土木の点検などで実際に引き合いが増えているという。このような需要と水中ドローン運用企業とのマッチングを進めるため、日本水中ドローン協会では、自らの情報発信だけでなく沿岸部を抱える自治体からの意見を吸い上げてビジネスチャンスにつなげる取り組みも進めているという。
大手山氏からは、この取り組みを促進するために国土交通省による情報プラットフォームの活用が提案されている。このプラットフォームは、水中ドローンを活用した事業においてユーザーが依頼したいニーズと企業が保有する技術のマッチングサービスを提供しており、水中ドローンを導入したいユーザーとサービスを提供したい(もしくはユーザーに訴求したい)企業にとって有益なリソースとなるという。
加えて、水中ドローンに関する情報不足と求めるニーズとのギャップを解消するためにも、利活用情報を企業から積極的にアウトプットすることが水中ドローンの利便性と認知度を高めるために重要と大手山氏は指摘する。協会が実施している展示会やイベントを通じた情報発信の実例としてOffshore & Port Tech 2024 in Sea Japanや静岡県清水港で開催予定のBLUE ECONOMY EXPOのようなイベント出展が水中ドローンの利活用を広くPRする機会となることが訴求された。
セミナーでは、地域の課題解決のための水中ドローンやその他の海洋技術の応用に焦点を当てたパネルディスカッションも行われた。地域の課題解決では、「地域特性」「運用環境」「技術動向」「ビジネス化」といった4つの観点から議論がなされている。
地域特性に関しては、基調講演を行った大手山氏が、全国で累計30カ所以上の体験会を実施した経験から、日本国内でも場所によって海中の環境が圧倒的に違うことが紹介された。特に水中における視界の違いについては、東京湾や神戸港での作業は視界が利かず、マルチビームソナーが必須となることが実証実験で明らかになっている。また、瀬戸内海や福島県沖などでは潮流が速いため、水中に投入したROVが常に流されているといった報告も上がっている。
FullDepth 代表取締役社長CEOの吉賀智司氏は、小型の水中ドローンを沿岸で運用する条件として、まず現地の漁業が運用時期にどういった状況にあるのかを調査し、運用内容が漁業に対して影響を与えないように配慮する必要性を訴えた。
また、水中ドローンに搭載するセンサーについては、濁りがある海中ではカメラだけで見通せる距離が2〜3m程度にすぎないため、遠くまで見通せるイメージングソナーが必須という。加えて、水中測位情報の取得ではSSBL(音響測位技術)やLBL(長基線:Long Base Line)ソナーの導入だけでなく、今後は陸上で取得できる高精度位置情報データと結合も求められることを考えると、水中における高精度測位が重要で、特に高精度での把握が難しい浅い水中での位置情報に関する技術開発が求められるとの見方も示した。
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