――プロジェクトでは、まずどういったことから着手されたのでしょうか?
晴奈さん チームに加わってくれた参加者に、曽明漆器店の事業内容や歴史を理解してもらった上で、現状の課題を一緒に洗い出すところから始めました。いくつか挙がった課題の中で特に注目されたのが、廃番になった商品などの在庫がデッドストックとして積み上がり、倉庫を圧迫していたことです。10年ほど前から空いた時間を見つけて少しずつ倉庫の在庫整理を進めてきましたが、少ない人数で行っていたこともあり、さほど進展がないままになっていました。
富代さん 問屋として、卸売りとともに自社商品開発も行う曽明漆器店にとって、在庫の圧迫はその両方に影響する大きな問題です。倉庫が圧迫されていると完成品を置く場所がないため、そもそも新商品の開発に着手できません。そこで、倉庫の中にあるモノを全て取り出し、倉庫を掃除することになりました。掃除や商品の整理には、越前鯖江エリアのモノづくり産地サポーターチーム「あかまる隊」も駆け付けてくれました。
富代さん 約10人で丸1日かけて掃除をしました。作業の終了後には、参加者へのお礼として好きな漆器をプレゼントしました。この「漆器払い」は、プロジェクトに参加したチームメンバーのアイデアを採用したものです。
――倉庫にはどのようなモノがどのくらいあったのでしょうか?
富代さん 倉庫にあったのは2万2000個もの商品で、金額にして約4500万円分です。特に多く残っていたのは、途中工程の荒挽(あらびき、器の形に合わせて粗く削り出した木材)や木地(荒挽をさらに削ってお椀にしたもの)でした。問屋として各工程を担当する職人の間を仲介し、工程と工程の間の期間は商品を自社倉庫に仮置きしていたため、通常は販売されることがない途中工程の仕掛品が残っていたのです。
晴奈さん 木地や荒挽の状態は良好でしたが、用途が分からず、マーケットに出しても買ってもらえるかなという不安がありました。実際に販売してみると、置き物やアクセサリートレーとして購入していただいた他、なかには「自分でお椀を挽きたい」という理由で荒挽を購入された方もいて驚きました。マーケットでは直接お客さんと会話ができるので、気付きや学びも多かったです。
――発表会の日の展示場所でも「木地や荒挽も買えるのか?」と質問していた方もいらっしゃいましたね。倉庫から見つかって意外だったものや驚いたものはありますか?
晴奈さん 倉庫には徳利袴(とっくりばかま)がありました。これは、とっくりからの液だれが畳やテーブルに付くのを防ぎ、倒れにくくするために、とっくりの下に被せる器です。以前は旅館や料理屋などで使用されていましたが、現在ではあまり見られなくなっています。私自身も今回初めて、これが何なのかを知りました。
とっくりと一緒に使う本来の用途で販売するというよりは、その文化を知るきっかけとしてもらい、使い道は購入者の自由な発想に委ねたいという思いがあります。おつまみを入れる器にしても良いし、お菓子や小物の入れ物としても使えそうです。
――マーケットではどのように商品の展示/販売をされたのでしょうか?
晴奈さん 一期一会マーケットは、漆器に詳しくない人でも漆器を楽しく学ぶことができる仕掛けとして「漆器プロフィール」と「うるしピクト」を用意しました。
漆器プロフィールのタグには、商品それぞれの特徴やストーリーと、それを基にチームメンバーが考えた商品名が記載されています。例えば、漆器の素材は主に天然木地、合成樹脂、木粉樹脂の3種類があり、塗装にも、漆やウレタン、合成漆(漆とウレタン)などのいくつかの種類があります。材質によって、電子レンジや食器洗い乾燥機が使えるか、修理が可能であるかなどが変わるため、漆器の特徴をピクトグラムで分かりやすく記載した取り扱い説明書のようなものを作成しました。自分のライフスタイルや好みに合った漆器と出会えるように工夫しています。
――実際に漆器プロフィールや、うるしピクトを読みながら見て回ると、一期一会の出会いにときめきを感じ、つい手に取ってみたくなります。きっと複数の人で協力して書いたんだろうなと想像できる、それぞれの筆跡やペンの色で書かれたメッセージに心が温まりました。漆器以外の商品もいくつか販売されていましたが、これも自社倉庫にあったものでしょうか?
富代さん 実は、自社倉庫にあった商品以外も販売しました。後継者がおらず、廃業予定の同業者から格安で譲り受けた商品です。実際に足を運んで1つ1つ見せてもらい、話し合いながら選定しました。しかし、このように同業者から買い取りができることはまれです。商品として状態も良く、まだ販売ができるはずなのに、廃業のタイミングで全て廃棄されてしまうケースが多いためです。こういった問題は産地全体で起こっていて、どうにか解決したいと考えています。倉庫で眠っている商品を外に出し、もう一度流通させ、表舞台に立たせてあげたい、という思いがあります。
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