EV市場の拡大見据えリチウムイオン電池材料を生産、旭化成が北米に1800億円投資工場ニュース(1/2 ページ)

旭化成はカナダのオンタリオ州においてリチウムイオン電池用湿式セパレータ「ハイポア」の製膜、塗工工程を含む一貫生産工場を建設することを発表した。

» 2024年04月26日 06時30分 公開
[長沢正博MONOist]

 旭化成は2024年4月25日、カナダのオンタリオ州においてリチウムイオン電池用湿式セパレータ「ハイポア」の製膜、塗工工程を含む一貫生産工場を建設することを発表。同日、東京都内およびオンラインで会見を行い、概要を説明した。

新工場は2027年に稼働、2倍の生産性を目指す

セパレータ工場の完成予想図 セパレータ工場の完成予想図[クリックで拡大]出所:旭化成

 新工場は2027年の商業運転開始を予定しており、生産能力は塗工膜換算で年間約7億m2となっている。旭化成 代表取締役社長の工藤幸四郎氏は「新工場には最新の生産技術を導入することで、業界標準比ではあるが、約2倍の生産速度を実現できると考えている。世界トップクラスの生産性を実現したい」と語る。

 投資額は1800億円を見込んでいる。2024年10月に設立予定の旭化成バッテリーセパレータが日本政策投資銀行に優先株を発行し、280億円の資金提供を受けることが決まっている他、ホンダと基本合意書を締結し、出資に関する検討を進めている。

旭化成 代表取締役社長の工藤氏 旭化成 代表取締役社長の工藤氏[クリックで拡大]出所:旭化成

 工藤氏は「セパレータに関してはこれまでのニッチだが収益性の高いビジネスから、大きな規模で世界展開する事業になってきている。工場の稼働率をどのように高めるかは非常に大きなポイントであり、(ホンダに)投資していただくことで安定的に注文が入り、われわれも供給できるのは非常にありがたい話だ」と評する。

 旭化成 常務執行役員の松山博圭氏は「車載用途では民生用途に比べて電池の寿命が重要になってくる。どこまでをセパレータあるいは自動車、電池の設計で担保していくのか、それぞれが理解しながら進めていくことが力になっていく。その点が今回、一緒に動いていくことの大きな価値となっている」と話す。

 カナダ政府と日本政府との間で締結された蓄電池サプライチェーンに関する協力覚書による支援を受ける他、カナダ政府、オンタリオ州政府からも補助金、恩典を受ける予定だ。「相当程度、投資リスクを軽減した形で投資を進められる」(工藤氏)。

セパレータ工場投資のスキーム セパレータ工場投資のスキーム[クリックで拡大]出所:旭化成

 セパレータはリチウムイオン電池の正極/負極間に位置する多孔質膜で、正極/負極間でリチウムイオンを透過させる機能を有するとともに、正極と負極の接触を遮断し、ショートを防止する部材だ。旭化成では2000年代から携帯電話、PC、スマートフォン、タブレット端末などの民生用途向けに大きく販売を伸ばし、2010年代からは車載用途の販売も拡大してきたが、近年はコロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻などを受けて販売量を減らしている。

「民生用途で高い市場シェアと強固な事業基盤があったため、車載用途へのかじ取りにやや遅れてしまった。車載用途は顧客とのビジネスが拡大する前に十分な生産能力を構えておく必要があるが、車載用途で主流となる塗工膜の能力を十分に備えられず、特定顧客の需要に依存する形となった。この反省を教訓として北米市場の展開を考えている」(工藤氏)

足元のハイポア事業の状況 足元のハイポア事業の状況[クリックで拡大]出所:旭化成
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