量子科学技術研究開発機構は、細孔が多数開いたガラス板へのレーザー光照射により、放射線の1種である高エネルギー電子線が発生することを実証した。がん治療に用いる内視鏡型電子線発生装置への応用が期待される。
量子科学技術研究開発機構(QST)は2024年3月29日、細孔が多数開いたガラス板にレーザー光を照射することで、放射線の1種である高エネルギー電子線が発生することを実証したと発表した。カリフォルニア大学アーバイン校らとの国際共同研究による成果だ。
瞬間的に光を放つパルスレーザーは、発光時間が短いほどピーク出力は高くなり、より高エネルギーの電子を発生できる。今回の研究では、これまでQSTが培ってきた技術を基に、ピーク出力は高くないが安定性に優れたレーザー装置を活用し、高効率で実用的な電子の加速を目指した。
高エネルギーの電子を発生させる実験では、一般的には非常に高いレーザー強度でガスや固体などの材料に照射する。同研究では、マイクロチャンネルプレートと呼ばれるガラス板に細孔が多数開いた市販材料を使用した。マイクロチャンネルプレートは、1mm2に、10μmの穴が約6000個空いている。
今回開発した手法を用いれば、従来の10分の1から100分の1に相当する低いレーザー強度でも、がん治療をはじめとする医療応用などに必要なエネルギーを持つ電子線が発生することが分かった。
今回の研究結果は、医療や産業に応用可能な高エネルギーの電子線を発生させるために大型のレーザー装置を用いる必要がないことを示している。このことから、10mJ程度と比較的低い出力の、手のひらサイズのレーザー装置を使ったがん治療用の電子線発生装置を作製できると考えられる。
また、光ファイバーの先端に微小なマイクロチャンネルプレートを固定すれば、内視鏡を利用した放射線がん治療が可能になる。この手法は患部付近だけで放射線を発生可能なため、被ばく線量を低減できる上、放射線の遮蔽(しゃへい)設備も不要となる。安全面により配慮した、低コストのがん治療装置の確立に貢献することが期待される。
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