――業務用の場合はアナウンスだけが聞こえればそれで良かったわけですけども、家庭用としてはまずテレビスピーカーだと。なぜテレビに注目をされたんでしょうか。
高濱氏 テレビ東京系列で「ガイアの夜明け」という番組がありまして、2018年にミライスピーカーを取り上げていただいたんですね。当時はまだ大きい製品しかなかったんですけど、それをテレビにつないでお使いいただいているお客さまがいらっしゃって。
その方に、私たちが小型のテスト機を作ったので聴いてもらいに行く、っていうシーンがあったんですよ。
――ああ、テレビ放送時はまだそういう状況だったんですね。
高濱氏 そんなに長いシーンではなかったんですけど、皆さんにすごく注目していただけまして。翌日から「小型製品はいつ出るんだ」「いくらなんだ」「教えてほしい」という問い合わせが1000件ぐらい寄せられ、もう電話が鳴り止まない状態になってしまいました。それを機に、個人のテレビの大音量問題は顕在化しているのだから、そのニーズにお応えする製品の開発に注力することとなりました。
――そこで小型化と低価格化、いわゆる設計の合理化へ挑むことになったわけですね。
高濱氏 そうしてできたホームの産みの親が、田中ということになります。
――なるほど。田中さんは以前旧ケンウッド(JVCケンウッド)にいらっしゃったそうですけど、その頃からスピーカーを研究開発されていたわけですか。
田中氏 いえ、それが全然やっていなくて、電気回路の方を担当していました。スピーカーは自作していましたけど、ユニットは作っておらず、箱を作ったりしていました。
――コンシューマー向けの「ミライスピーカー・ミニ」(ミニ)を拝見しますと、ドライバーに直接曲面振動板の端っこがくっついていますよね。いわゆるボイスコイルの筒の先端に接着してあるということでしょうか。
田中氏 そうです。あそこが1番構造的に強いところなので。
――こういう構造を作ること自体は、ドライバの構造に詳しい人なら気付くだろうと思うんですけども、それより元のスピーカーの音と振動板の音を足してバランスを取るほうが、まあまあ大変な話ですよね。
田中氏 そうですね。まず、どうすれば1番聞こえにお困りの方に聞こえがいいのかを考えて、曲面振動板の材質のマッチングを探し出すのが大変でした。
曲面振動版は、基本的には歪みだらけなんです。で、その歪みになっている場所をなるべく人の声の帯域に近いところで、1番効率よく発生させるような材料とサイズ、それから曲率を見つけだすのが、最初に苦労したところです。
――そうして最初のコンシューマー製品、ホームが登場するわけですけど、このサイズ感っていうのは、なにかレファレンスになるものがあったんですか?
田中氏 それがなくてですね。ホームを開発する前に拡声器って言うんですかね、ワイヤレスマイク接続できる「ミライスピーカー・モビィ」を製品化したんですけども、その時に作った振動版ユニットのサイズをベースに、ホーム用の振動板サイズを割り出しました。そのサイズぐらいまでだったら、小さくしても耳の聞こえにあんまり影響なくできるなと。
あと当時、本当に企業としての体力がなかったので、専用のスピーカユニットの企画を起こすのが難しかったんです。そこで既存品のフルレンジでこのぐらいのサイズはないかと探したら、5cmのフルレンジが1番世の中にいっぱい出回っている、ということが分かりました。それのセンターキャップを外して、振動板をつけられるように改造する、という注文になんとか対応してくれるスピーカーユニットメーカーさんがいたので、それでようやく実現しました。
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