東京理科大学とデンソーは、これまでに報告されている酸化物固体電解質よりも幅広い温度域で高いリチウムイオン伝導度を持つパイクロア型固体電解質を発見したと発表した。
東京理科大学とデンソーは2024年4月2日、これまでに報告されている酸化物固体電解質よりも幅広い温度域で高いリチウムイオン伝導度を持つパイクロア型固体電解質の「Li2-xLa(1+x)/3 M2O6F(M=Nb,Ta)」を発見したと発表した。
なお、同大学 創域理工学部先端化学科 教授の藤本憲次郎氏、講師の相見晃久氏(現在は防衛大学校の講師)、デンソー 博士の吉田周平氏らの研究グループが得た成果だ。
既存のリチウムイオン電池よりも高いエネルギー密度と安全性を兼ね備えた次世代電池として、全固体リチウムイオン電池の実用化が期待されている。全固体リチウムイオン電池の固体電解質としては、大きく分けて酸化物系と硫化物系の2種類があるが、より高いイオン伝導度を持つ硫化物系固体電解質の研究が盛んに進められている。しかし、硫化物系固体電解質は大気中の水分と反応して有毒な硫化水素を発生させる危険性がある。
そこで、今回の研究では、大気中で安定なパイクロア型結晶構造を持つLi2-xLa(1+x)/3 M2O6F(M=Nb,Ta)を合成した。この物質は室温でバルクイオン伝導度が7.0mS cm-1で、全イオン伝導度が3.9mS cm-1と、これまでに報告されている酸化物固体電解質の中で最も高いイオン伝導度を示すことが確認されている。
今回の研究グループはまず、炭酸リチウム(Li2CO3)、酸化ランタン(La2O3)、M2O5(M=Nb,Ta)、フッ化ランタン(LaF3)、フッ化リチウム(LiF)を用いて、パイロクロア型酸化物Li1.25La0.58M2O6FおよびLi1.00La0.66Ta2O6Fを合成した。
これらの導電率を計測したところ、室温(〜298K)でバルクイオン伝導度7.0mS cm-1で、全イオン伝導度が3.9mS cm-1と、既知の酸化物固体電解質のリチウムイオン伝導度よりも高く、水素ドープLi3Nの導電率(6.0 mS cm-1)に匹敵することが分かった。この材料はイオン伝導の活性化エネルギーが小さく、硫化物系を含めた既知の固体電解質の中で、低温におけるイオン伝導度はトップクラスだった。
次に合成したこれらの物質について、粉末X線回折(XRD)で結晶相を同定し、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)で元素組成分析を行い、これらのデータを基にBond Valence Energy Landscape(BVEL)法を用いてLiイオン伝導経路を計算した。
その結果、パイロクロア型構造では、LiイオンはMO6八面体によって形成されたトンネル内に位置するFイオンを覆うような導電パスを持ち、Fイオンとの結合を順次変えながら移動するという伝導経路が示唆された。Fイオンの欠損を防ぐことおよび非伝導イオンであるLaを減少させることが導電率の発現に必要であると考えられる。
リチウムイオン電池はさまざまな用途に利用されており、現代社会においてはなくてはならない存在だ。一般的に使用されているリチウムイオン電池は液体有機電解質を含んでいるが、固体電解質を用いた全固体電池の方が、安全性や充放電性能などの面で優れていることから、実用化に向けて研究が活発に進んでいる。
一方で、固体電解質は液体電解質に比べて電極との接触面積が小さくなるため、必然的にイオン伝導度が低くなるという問題がある。これまでに、室温で12 mS cm-1という高いイオン伝導度を示す硫化物系固体電解質が報告されるなど、高エネルギー密度や高出力密度が求められるEV(電気自動車)などの主要産業分野では硫化物系を中心に研究が進められてきた。
しかし、硫化物系固体電解質は、大気中の水分と反応して有毒な硫化水素を発生するリスクがある。一方、酸化物系固体電解質のイオン伝導度は硫化物系には及ばないが、大気中でも硫化水素ガスを発生しないため、安全性という面では硫化物系よりも優れている。そのため、現在、ペロブスカイト型、ガーネット型など、さまざまな結晶構造を持つ酸化物系固体電解質の開発が進んでいる。
高いイオン伝導度の発現要件として、イオン伝導パスと呼ばれる特徴的な構造が重要であることが知られている。パイロクロア型構造の中には、イオン伝導パスが存在している可能性があるが、これまでリチウムイオン伝導に関する研究はほとんど進められていない。
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