フィルムをダンベル型に切り出して、引っ張り試験によりフィルムの強度を測定しました。この測定についても、ブロックサイズの影響を強く受けることが分かりました。短/短型のフィルムのみが引っ張ることで高い伸びを示しました。応力ひずみ曲線を見ると、ひずみが小さい間は応力に変化がなく、変形しています。その後、さらに引き続けると、応力の上昇がみられ、引っ張るほどに強度が増す挙動を示しました。
一方で、短/短型以外の組み合せを持つフィルムでは、同様に試験したところ、ほとんど伸びを示さず、すぐに破断してしまいました。このように、共重合体のブロックサイズを調節することで機械特性を変えることができると判明しました。
なぜこのようにブロックサイズによって物性に違いがあるのかは、いまのところ明確な結論には至っていません。しかし、これまでに得られた知見から、以下のような結晶性の違いに由来していると推察しています。
PBSとPA4はともに結晶性高分子でありドメイン中で結晶を形成します。このドメインの大きさは結晶化のしやすさあるいは結晶の大きさに直結します。つまり、大きなドメイン中では結晶化が起きやすく、かつ大きく成長すると予想されます。そして、共重合体中のPBSあるいはPA4ブロックのサイズが大きいほど、ドメインのサイズは大きくなると考えられます。
フィルム中の結晶性が高く、そのサイズが大きくなると、可視光領域での散乱が起こると考えられ、ブロックサイズが大きくなるとフィルムが白濁していくことをうまく説明できます。
引っ張り試験結果の違いも同様の考えで解釈できます。ポリマー分子は、一部は結晶化し、それ以外は非晶質(アモルファス)となっています。結晶相は分子が整列しているのに対して、アモルファス相は、分子が乱雑に並んでいます。フィルムは外的な力で引っ張られると、分子同士の相互作用が小さなアモルファス相の分子が移動することで、伸びるといった変形を起こします。
アモルファス相の高分子が引っ張り方向に伸びきったところで変形は終わり、さらに引っ張ることで破断します。この時に、伸びきった高分子は同じ方向に配向しているため応力が増加したのかもしれません。一方で、結晶が増えすぎると相対的にアモルファス相が小さくなり変形する余地が小さいため簡単に破断してしまったと考えています。それに加えて、結晶ドメインの界面に応力が集中することも破断の要因と考えられます。
これを検証するためにX線照射による構造解析を行いました。広角X線散乱(WAXD)法によりフィルム中の結晶化の程度を推し量ることができます。フィルム全体の量=結晶の量+アモルファスの量としたときに、結晶化度(Crystallinity Index、CI)=結晶の量÷フィルム全体の量と定義し、WAXD法によりそれぞれのフィルムのCIを算出しました。その結果、短/短型のフィルムのCIが15%と最も小さく上の考察に合致しています。今後、より詳細な構造解析を進めて、物性発現のメカニズムを明らかにしていく予定です。
以上のように、私たちのグループでは、持続的なプラスチック社会の実現に向けた新しいバイオプラスチックの開発の一環として、バイオポリエステルであるPBSとバイオポリアミドであるPA4の複合化材料を合成しました。
マルチブロック共重合体構造とすることで、互いに混ざりにくい高分子を均一化することができました。さらに、ブロックサイズの調節が可能となり、結晶化度を制御することでフィルムとしての物性を最適化できることが分かりました。
今後、合成コストの削減、スケールアップを進めるとともに、さまざまな物性を明らかとすることでニーズに対応していく計画です。また、このブロック長を鍵とする設計指針は、多様な高分子への適用が可能であり、より機能性の高い材料の開発も見込まれます。これらを通じて、持続的なプラスチック社会の実現に貢献していきます。(連載完)
産業技術総合研究所 官能基変換チーム 主任研究員 田中慎二(たなか しんじ)
博士(理学)。2021年まで名古屋大学にて助教として勤務。2021年より現職。専門は、有機合成化学。特に、触媒を用いた物質変換技術、キラル物質合成技術の開発を中心に行っている。近年は、バイオプラスチックの開発も推進している。2017年有機合成化学奨励賞。
[1]Hideaki Ono,et al.Macromol.Rapid Commun.2023,44,20230015.
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