――前機種のGODJ Plus発売から数年を経ての新規プロジェクトですが、どのような経緯があったのでしょうか。
宮崎氏 私たちがDJデバイスの初代モデルGODJを市場に投入してから12年がたとうとしていますが、その間、類似の製品は一切市場に登場していません。理由は幾つかありますが、大きな要因としてDJデバイス製作の難しさが挙げられます。
DJデバイスは複数の物理インタフェースがありますが、これらをしっかりコントロールするソフトウェアを制作するのはかなり困難です。さらにインタフェースから得たユーザーによる操作情報を、できるだけ短い遅延時間でDJプレイに反映させる技術も必要です。これらがハードルとなり、DJデバイスを製作できる会社は世界でも片手で数えられるほどしかありません。その中でもポータブルにこだわっているのは唯一、私たちの会社だけです。
そのような状況で、ユーザーの皆さまからも「買い替えようにも似た製品が世の中にないから、後継機を作ってほしい」という声が上がっていました。それに応える形で今回このプロジェクトを立ち上げることになりました。
――Makuakeでのプロジェクトの開始から1日で約2500万円以上が集まりました。市場の期待感の現れですね。
宮崎氏 それほど多くの皆さんに待ち望まれていた製品だったのだと感じました。初日に購入する方が何百人もいてくださったことは非常に心強いですし、現在もなお多くの方々に賛同いただいているのはとてもありがたいことです。私たちも自分たちの使命と考えて開発に取り組んでいますし、他社がまねできないオンリーワンの技術にさらなる磨きをかけていきたいと思っています
――FJ1の具体的な利用シーン、想定ユーザーを教えてください。
宮崎氏 FJ1のターゲットは、プロのDJではなく趣味でDJをしている方々です。プロのDJは大きく、本格的な機材を操るパフォーマンス自体も重要で、その点でポータブルの機材は適していません。実際にプロのDJから「この機材ではお金を稼げる気がしない」と言われたこともあります。それはそれでへこみましたが、ターゲットにすべき層はそこではないことも分かりました。
今回、Makuakeで初日に購入してくださったアーリーアダプターの方々は、ほとんどが趣味でDJをしている方々です。彼らはパフォーマンスの大きさや機材の見た目よりも、使いやすさや便利さを求めます。会社帰りにクラブなどでDJプレイをする際、本格的な機材を会社には持って行けないことから、現状はノートPCにDJのコントローラーをつなぎ、アプリケーションを使ってプレイをしているケースが多いです。しかし実際は、PCの紛失やお酒をこぼされるなどのリスクから「仕事やプライベートのPCをクラブに持って行きたくない」という声をよく聞きます。その点でFJ1は大いに役立つでしょう。
またDJでない方にとっても、FJ1は普段遣いのオーディオ機器としておすすめです。私たちの世代は、CDラジカセやミニコンポなどで音楽を聴いていました。それが今やPCやスマートフォンになって、どんどん便利にはなっていくけれど、音質的にはどんどん下がっています。そのような中で、音が良くてしかもちょっとしたミキシングの楽しさも味わえる音楽プレーヤーがあってもいいのではないでしょうか。
皆さんも学生時代に、好きな曲を集めたマイテープやMDを作る、それをカーステレオで聞く、ということをよく行っていませんでしたか。その作業がこれ1台で完結しますから、そうした音楽の楽しみ方をしてきた世代にも必ず刺さると思っています。
――今後の展望について教えてください。
宮崎氏 このままの調子で行けば、2024年1月のクラファン終了時には1500人以上の支援者が集まる予定です。それはつまり、日本国内で1500人のDJが誕生することを意味します。実現すれば国内のDJカルチャーにとって、かなり革命的なことです。
そこで、私たちはそのタイミングで無料のDJスクールの開校を考えています。今回、FJ1をお買い上げいただいた方の中には、これを使って本当にDJになれるのか、不安をお持ちの方もたくさんいらっしゃると思います。そこでプロのDJを招いて、FJ1の使い方やDJになるためのレクチャーを受けられる場を、オフラインとオンラインの両方で設ける予定です。
加えて、既に世界中から問い合わせを頂いている状態ですので、完成した暁には海外展開も積極的に行っていきます。現在は2024年8月のお届けを目指して量産体制を整えていますが、年内はバグへの対応が必要になると考えています。これまでと同様、日本のユーザーの皆さまに実際に使っていただきながらアップデートを重ね、2024年は日本国内でソフトウェアの完成度向上に尽力する予定です。そして2025年に満を持して、日本人が設計した日本人らしいDJデバイスとして、海外に打って出たいと思っています。
長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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