耳をふさがず音漏れは最小に、逆相で音を打ち消す新技術搭載のイヤフォン小寺信良が見た革新製品の舞台裏(25)(1/4 ページ)

NTTソノリティが「nwm MWE001」というワイヤードイヤフォンのクラウドファンディングを実施した。耳をふさがないオープン型イヤフォンでありながら、音漏れが小さいという。「逆相の音」で打ち消す「PSZ技術」が活用されているというが、これは何か。NTTソノリティの担当者に開発経緯と併せて話を聞いた。

» 2023年03月23日 08時00分 公開
[小寺信良MONOist]

 2022年7月、NTTソノリティという会社から、「nwm MWE001」という一風変わったワイヤードイヤフォンがクラウドファンディングサイトに登場した。耳をふさがないオープン型イヤフォンでありながら、音漏れが小さいという。

昨年7月、クラウドファンディングに登場した「nwm MWE001」[クリックして拡大]

 「耳をふさがない」というのは、コロナ禍に突入した2020年春頃から急速にトレンド化し、多くのメーカーが参入したわけだが、耳穴にドライバーを入れる密閉型でなければ、シャカシャカという音漏れは避けられない。しかし、これを「逆相の音」を使って打ち消す「PSZ技術」が搭載されているという。

 PSZとは「Personalized Sound Zone」の略で、NTTコンピュータ&データサイエンス研究所が開発した技術だ。NTTソノリティはこの技術を使って広く製品展開をするために2021年9月設立された、新しい会社である。

 追って2022年12月には、同様の機能を持つBluetooth対応の完全ワイヤレス「nwm MBE001」のクラウドファンディングもスタートしている。製品群を表すブランド、「nwm」も立ちあがった。筆者は両方のモデルを試聴させてもらったが、確かに他の「耳をふさがない系」のイヤフォンよりも極端に音漏れが小さかった。

ワイヤレスの「MBE001」もクラウドファンディングがスタート[クリックして拡大] 出所:NTTソノリティ

 そこで今回は、2つの製品を開発、販売するNTTソノリティに、このPSZ技術と、イヤフォン開発に至った経緯などを伺うことにした。お話しを伺ったのは、同社 事業本部 プロダクト 部長の長谷川潤氏と、クリエイティブディレクターの竹内慎太郎氏である。

10cm前にずらすと「何も聞こえなくなる」衝撃

――僕も早速、ワイヤレス型をクラウドファンディングで支援させて頂いているところなんですが、このPSZ技術は、そもそもどういうところからの発想なのでしょうか。

長谷川潤氏(以下、長谷川) そもそもスピーカーって、宙に浮かせるとあまり音がしないんですよね。前から出ている音と後ろから出ている音は位相が逆なので、それがぶつかると音が消えてしまう。だから普通はバッフル板にスピーカーを固定して、その後ろに箱をくっつけて、ようやく大きな音が鳴るわけです。

 ただNTTの研究者に1人、ユニークな発想の持ち主がいまして、「この箱を取っ払ってみたら何か起こるんじゃないか?」と最初にアイデアを出しました。つまり背面に出た音が前に回り込むことで、音が消えてしまう。その原理を何かプラスになることに利用しようというのが、このPSZという技術の原点になります。

――今回のイヤフォン型製品の前に、何かこの技術を応用した具体的な形のものがあったんですか。

NTTソノリティ 事業本部 プロダクト 部長の長谷川潤氏 出所:NTTソノリティ

長谷川 まず試作したのが、飛行機とか車のシートヘッドレストですね。内部にPSZ技術のスピーカーを埋め込むと音が周囲に漏れないので、ヘッドフォンの代わりになるんじゃないかっていう発想からスタートしています。

 3年前の2020年11月に開催した、NTTの「R&Dフォーラム」という技術発表会みたいなイベントで、航空機シートの形にしたヘッドレストを初めて出展したんですね。それを聴いた当時の澤田純社長(現NTT 代表取締役会長)が、「これいいね」と。

 実は、私もそれを聴いてすごいと思った1人でして。頭を10cmぐらい前にずらすと、本当に何も聞こえない。そこでNTTの中でも注目が集まって、会社を作ってぜひ出そうぜっていうことで、NTTソノリティという会社を設立することになったんです。

――ヘッドレストのようなものとイヤフォンでは、ずいぶん構造が違うように思いますけど、単純に小さくしていけばイヤフォンになるというものでもなさそうですよね。

長谷川 ヘッドレスト型では、スピーカー1つが50mm径で、しかも片側に2つずつ、計4つ置いてあります。逆相を出すのにスピーカーを左右1セット使っているので、とてもじゃないけどポータブルではありませんでした。

 それをどうにか小さくできないかというのをずっと試行錯誤して、結果今のような小さい1つのスピーカーだけで、正面からは正相の音、背面からは逆相の音をそのまま外に放出する、というところに落ち着いた、というわけです。

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