耳をふさがず音漏れは最小に、逆相で音を打ち消す新技術搭載のイヤフォン小寺信良が見た革新製品の舞台裏(25)(2/4 ページ)

» 2023年03月23日 08時00分 公開
[小寺信良MONOist]

逆相の音をコントロールするために

――そうは言ってもですね、僕もスピーカーを自作したりするタイプなんですが、逆相をコントロールしていくのって結構大変な話じゃないかと思うんです。

長谷川 そうですね。私たちが会社設立する前の段階で、研究所がかなり苦労してある程度のとこまでは形にしていたんです。今よりもう少し大きいスピーカーで、簡単な試作の箱を作って。それこそ100種類以上試したと言ってました。

 でも会社を作った時にはまだ全然製品になってないレベルで、特許を出すために取りあえず作った、みたいなものしか存在しなかったんです。それを私どものチームで、何とか製品にしていったという感じですかね。

――当時は、今の製品よりまだ大きかったんですか。

長谷川 今は12mmのドライバを使ってるんですけど、小さすぎると研究が難しいということで、当時は16mmのドライバを使ってました。音を消すために背面の音を放出しないといけないのですが、正相と逆相が近い方が消えやすい。打ち消しのタイミングがずれなくなるので、良いんですね。

 いろいろ試行錯誤していくうちに、16mmと12mmのドライバでうまい具合に音が消えるっていうことが分かりまして。16mmの方が音圧は出るんですけど、12mmの方が消えやすいという結果から、12mmのドライバーを採用しました。

 ドライバーの選択もそうですし、その側面に3つ穴が開いてるんですけど、その穴のサイズや位置、中にある防塵防水用メッシュ材質だとか、組み合わせとしては膨大な数があります。これらを試しつつ、取り付けの構造と音質、この辺を総合的にいろいろ検討した結果、今のところにどうにか落ち着いたということです。

――エンクロージャの構造が、角が取れた四角いボックスになってますね。あの構造がポイントなんでしょうか。

先端の四角い部分が音の出るエンクロージャ部[クリックして拡大]

長谷川 実はですね、外側に見えてる形には音響的には何の意味もないんです。その中に丸形の箱があって、そこで音響的には完結しています。ですから外側の箱は、デザイン的な観点と、耳のそばに置いたときの見た目、それからツルを取り付けるための構造として使っています。

――逆相の放出口が3箇所ありますよね。これもやはり、3つ必要だったということでしょうか。

長谷川 当時いろんな数を試しました。内側に正相の音が出る穴があるんですけど、そこと位置が合ってしまうと音が消えすぎてしまうとか、いろんな条件があってですね。PSZ技術の性能的には3箇所と4箇所でそこまで極端に変わりがなかったので、あとは取り付けの構造とかも含めて、バランスを見て3箇所にしました。

――ワイヤードの「nwm MWE001」とBluetoothの「nwm MBE001」、これはどちらも構造は同じなんですか。

ワイヤレス型の「nwm MBE001」[クリックして拡大]

長谷川 構造的には同じ金型で作っています。ただワイヤードはご承知のように、再生機によってはインピーダンスも含めてバラツキが大きいので、条件が合わないと音が小さくなったりするとかはあります。一方、Bluetoothはそういったバラツキがない代わりに、音が割れないようにするだとか、細かい処理を入れています。

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