コバルトフリーやバイポーラ型、全固体電池などバッテリーの動向をおさらい今こそ知りたい電池のあれこれ(22)(2/3 ページ)

» 2024年01月30日 06時00分 公開

(2)「バイポーラ型電池」

 2021年、トヨタ自動車がハイブリッド車(HEV)「アクア」に『バイポーラ型ニッケル水素電池』を世界初搭載しているという報道や、「電池・カーボンニュートラルに関する説明会」において今後『バイポーラ型ニッケル水素電池』搭載車両を拡大していく旨の発表がなされた際には「バイポーラ型電池」について解説をしました。「電池・カーボンニュートラルに関する説明会」の質疑応答の中には、今後『バイポーラ型電池』の構造を『リチウムイオン電池』へ展開することを示唆する回答がありました。

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 それから約2年後の2023年6月、電動化や知能化に向けたトヨタ自動車の技術開発の取り組みを紹介する中で、次世代電池「バイポーラ型リチウムイオン電池」は、普及型バッテリーの1つとしてLFP系材料を採用したタイプを2026〜2027年ごろに、ハイパフォーマンス型としてハイニッケル正極を採用したタイプを2027〜2028年ごろに、それぞれ実用化を目指す旨の発表がなされました。

トヨタ自動車のバッテリーのラインアップ[クリックで拡大] 出所:トヨタ自動車

 バイポーラ型電池の特徴はあくまでも「電池構造」の話であって「ニッケル水素電池」に限定されるものではなく、技術的な課題点も多く車載用途に採用する難易度は高いということを、先述の過去記事の中では解説しましたが、実際に車載用バイポーラ型リチウムイオン電池の実用化が進んでいるというのは、電池業界に携わる者の1人として純粋にうれしく思います。

(3)「全固体電池」

 全固体電池に関しては、日産自動車の発表や出光興産とトヨタ自動車の合同記者会見が記憶に新しいところかと思います。本コラムでも過去に何度か、全固体電池に関する解説をしてきました。

 全固体電池の大きな技術課題の1つは「良好な反応発生界面の担保」です。従来の電解液(液体状の電解質)を用いる電池の場合、充放電に伴う化学反応は活物質(電池容量を担う電極材料)と電荷担体(キャリア)を媒介する電解液の間、つまり「固体」と「液体」の接触界面で進行するものでした。

 しかし、電解液ではなく固体電解質を用いる「全固体電池」の場合、主たる電池反応の発生箇所が「固体・固体界面」となります。この「固体」と「固体」の「接触界面」をいかに良好な状態で形成/維持できるかというのが、全固体電池の実用化においては大きな課題です。

SEI(固体電解質界面)とは[クリックで拡大] 出所:理化学研究所、高輝度光科学研究センター

 2021年9月に行われたトヨタ自動車のオンライン説明会の中でも、充放電に伴う活物質の体積変化によって、固体電解質と活物質の間に隙間が生じてしまうことで、電池寿命などの特性低下を引き起こすという課題が示されました。

 そのため、当時の発表の中では、活物質の体積変化が比較的穏やかであるとともに高出力特性を生かせるHEVに全固体電池の搭載を先行させ、さらなる材料開発に取り組みながら上記課題を克服した上で、HEVからEVに展開していくという旨の説明がなされました。

 それから約2年後の2023年6月、電動化や知能化に向けた技術開発の取り組みについての紹介の中で、ブレークスルーによって全固体電池の耐久性に関する上記課題の克服にめどがついたため、HEVから先行するという方針を一転し、EV用として開発を進めているという発表がなされました。

 課題の克服につながった「ブレークスルー」というのが、先日行われた出光興産とトヨタ自動車の合同記者会見にて述べられた「柔らかい」素材の適用にあたるかと思います。

 固体材料に「柔らかさ」、つまり活物質の体積変化に追従できる「柔軟性」があれば、上記課題の克服につながります。また、全固体電池の製造および運用面の課題の1つとして、良好な界面形成のために高圧プレスなどの工程を必要とするという点が挙げられることもありましたが、固体電解質自体に界面形成しやすい柔軟性があれば、その課題も克服できる可能性があります。

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