こうした観点であらためて、DXについて「デジタル技術を活用して組織をよりスマートにすること」と定義し、具体的な活動のポイントとして以下の4点を示した。
西岡氏は「ITに対して特に身構えることなく、常に組織が活性化し成長していくことが重要だ。メンバーが組織として持続的に成長するために、主体となってデジタル化を推進していく活動こそが重要である。現在行っているアナログな業務をデジタルに置き換えることそのものがDXの本質ではない。ただ、そこで行われているプロセスや知識、ノウハウはデジタル上で表現できるようにする必要がある。ノウハウをデジタルで伝えることは重要で、アナログでやっていることを明示的に伝えられるかがポイントとなる」と語る。
つまり、現場のベテラン社員のアナログの作業そのものが問題なのではなく、その作業がアナログであるがゆえにブラックボックス化していることが問題だという考え方に立つことがまずは重要であるということだ。その視点に立ってデジタルの世界で明示化され、組織としての業務に問題がなければ、あえてデジタルによる業務変革を進めないというのも選択肢の一部だという。
IVIでは、これまでの取り組みのなかで、これらのDXを組織として推進するためのツールをさまざまな実証を通じて生み出してきた。製造現場では、業務内容や確認事項、その知見などが必ずしも全て明示化されているわけではなく、あいまいな概念により、同じ言葉を使っていも異なることを指してしまうようなことが起こり得る。IVIでは実証を通じた課題解決の中で、これらの製造現場で起こることや指す事象などを1つ1つ明示化し、これらを明示的に表現できるようなツールを用意してきた。
例えば、製造現場のデータアーキテクチャを示すためのレファレンスアーキテクチャとして、IVRA(Industrial Value Chain Reference Architecture)を用意し、国際的な規格の1つとして申請を行ったり、異種環境間のデータ連携を容易にする「コネクテッドインダストリーズオープンフレームワーク(CIOF)」の開発を行ったりしてきた。
こうした取り組みの中で生み出されたのが「スマートシンキング」だ。スマートシンキングは「問題発見」「問題組織」「課題設定」「課題解決」の4つのサイクルで得られる知見を組織内で共有し、そのつながりを相互に深めることで、効果的な知の生産を行う思考プロセスのことをいう。
具体的にIVIのスマートシンキングでは、全てのプロセスをIVRAや16種類のチャートを使ってデジタル上に記録していくことから行う。16種類のチャート(16チャ)は「なぜなぜチャート」や「待ち合わせチャート」「プロセスチャート」「レイアウトチャート」など、製造現場の問題を明らかにしたり、現場目線で問題の内容を理解したり、デジタルによる解決手段をデザインしたりするために使うチャート表だ。
例えば、困りごとチャートからスタートし、事実と課題を参加メンバーが分けて、そこで出てきた課題を抜き出し、なぜなぜチャートでこれに原因や結果の関係を結び付けていくような使い方をする。課題の先にある課題も多層的にどんどん原因に結び付けていくことで、各課題の対してその解決すべき取り組みや根治すべき問題などを明示していくことができる。事実、課題、取り組みの順でつなげて、最終的な目標を定義する。これらの関係をデータ化して次のステップに展開するという流れだ。
西岡氏は「最終的にDXを進めても成果はシステムの形に落とし込まないと動いていかない。そのためには、仕様書の裏にある思いや狙い、アイデアなどが重要な情報となる。従来はそれらが現場のあちこちに散っていたが、それを結び付けることでDXにより本質的な価値につなげられるようにすることが重要だ」と訴えている。
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