MONOistはライブ配信セミナー「MONOist DX Forum 2023 冬〜できるところから始める製造業DX〜」を開催した。本稿では、Industrial Value Chain Initiative(IVI)理事長で法政大学デザイン工学部 教授の西岡靖之氏による基調講演「スマートシンキングが組織を変える!〜ボトムアップなDXの進め方」の内容を紹介する。
MONOistはライブ配信セミナー「MONOist DX Forum 2023 冬〜できるところから始める製造業DX〜」を2023年12月13、14日の両日開催した。本稿では、Industrial Value Chain Initiative(IVI)理事長で法政大学デザイン工学部 教授の西岡靖之氏による基調講演「スマートシンキングが組織を変える!〜ボトムアップなDXの進め方」の内容を紹介する。
西岡氏が理事長を務めるIVIは日本機械学会 生産システム部門の研究分科会が母体となって2015年6月に設立された製造業およびITベンダーなど業界をまたいだ団体だ。2023年3月末時点で232社が参加し、製造現場起点の課題解決を軸にさまざまなデータ連携の仕組みや手法などの確立を推進している。具体的な製造現場での実証を通じて、解決策を確立するワーキンググループ活動など、「つながる工場」のためのレファレンスモデルを複数企業が共同で構築することをサポートしている。
DXは、人手不足に悩む製造業にとって、現在は競争上でも必須条件となりつつあるが、成功している事例はまだまだ限られている。西岡氏はDXがうまくいかない問題点として、以下のような、概念的なハードル3つと、手段としてのハードル3つを挙げる。
西岡氏は「現実的なハードルは、人材、方法、道具の3つに集約できる。人材や方法は教育や育成によって解決につなげていくことはできる。しかし、道具がないという問題はどうしようもない部分だ。ここを埋める提案をさまざまな形で進めていくということが重要だ」と語る。
多くの製造現場を見ると、デジタル技術が全く使われていないというところはほとんどなく、逆にさまざまなデジタル技術の活用が入り乱れているというのが現状だ。IT系システムでは、オフィスでの事務処理での使用が中心であるため、ある程度の形が決まっており、ITベンダーへの依頼でも問題なく解決できることも多い。しかし、製造現場は作るものや工場環境などに合わせて全て異なっている。パッケージソフトを用いて共通化、標準化しても、現場の運用を阻害することになる。
一方で、個々の仕様に合わせてシステムを開発すれば、コストが跳ね上がり、これも導入を進めることができない。また、独自で開発するにしても、ITシステムと現場で使用されているOT(Operational Technology)システムは分断されており、円滑に使えるシステムを作るためには、ITとOTという異なる領域の両方の知見が必要になる。これら両方に通じる技術者を確保するのは非常に難しい。
西岡氏は「現場にとって理想とするシステムは『拡張可能であること』『適度な価格でそれ以上の価値を生むこと』『命令通り動いて、使いやすいこと』というもので、これをITベンダーに要求すると『とても無理だ』という話になる。こういう形で成功している企業は、ある程度の人材を確保しながら、独自のシステムを構築したケースに限ったものだ。つまり、実際に目指すべきDXの形は、製造業でもあっても、独自のシステムをしっかり作って、それを運用していくことが大きなポイントだ」と主張する。
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