社外教育型の事例としてMIのコンサルティングサービスを提供するEnthoughtと同社のサービスを受けてMIをスタートした素材メーカーTBMのインタビュー記事の一部を紹介する。
Enthoughtは、2001年に米国テキサス州のオースティンで創業したソフトウェア会社で、企業向け伴走型のDX(デジタルトランスフォーメーション)/MIサービスを提供している。同社の大きな特徴は、社員のうち85%が、科学、IT、技術、数学のいずれかで修士以上を修了し、75%が博士号を取得した人材である点だ。そのため、社員の多くが、素材/化学や自然科学などの知見を持ち用語を分かっているため、どのようなメーカーから素材開発について相談を受けても課題を見抜き、的確にアドバイスが行える。
同社ではさまざまなMIの教育サービスを提供しているが、特に評価が高いのがアプレンティスシッププログラムだ。
アプレンティスシッププログラムは、6カ月間をかけてMI人材を育成するプログラムで、同社のメンターが対象者と話し合い、所属する企業の素材開発やそのプロセス、製造工程における課題を洗い出す。次に現在、どのようにその課題を解決するために情報収集や対策を行っているのかをテクニカルチームのメンターが把握する。
続いて、メンターが対象者のMIやプログラミングのレベルに合わせて座学を行う。座学では、Pythonや情報科学、ソフトウェアエンジニアリングなどを教える。その後、東京都内あるいはオースティンのオフィスで3週間をかけて、対象者がメンターの支援を受けつつ所属企業における素材開発などの課題を解決するための作業(MI用システムのコーディングなど)を行う。
その3週間が終了後に、対象者が所属する企業で通常業務を行うようになっても当社のメンターシップは2〜3カ月間をかけて実施する。その際には、フルタイムでメンターシップを受けて課題解決のプロジェクトを続けられる人もいれば、他のプロジェクトと掛け持ちで継続する人もいるという。最後に対象者が、アプレンティスシッププログラムで取り組んだ作業の進捗や成果を、所属する企業の幹部や関係者にプレゼンテーションする。
このように、同プログラムでは半年間という短期間で対象企業に必要なMIのノウハウを社員に教育できるとともに、プレゼンテーションにより社内の上層部も有用性を理解しやすく迅速にMIの運用に踏み切れるのがメリットだ。加えて、半年間で学びきれなかったMIの知識やアップデートしたいノウハウをアフターサービスにより習得可能なため情報の補完も行える。
マテリアルズ・インフォマティクス・アクセラレーションプログラムとしてアプレンティスシッププログラムを受けたのがTBMのMI推進チームだ。TBMのMI推進チームは、国内拠点や今後設置を予定している海外拠点で、石灰石を主原料とした環境配慮素材「LIMEX(ライメックス)」と、使用済みプラスチックなどを原料とした再生素材「CirculeX(サーキュレックス)」の生産をMIで効率化するために組織された。3人のメンバーから成りそれぞれがMIに関する知見が少なかったためアプレンティスシッププログラムを受けた。
TBMのメンバーは、アプレンティスシッププログラムで、最初の3カ月間はプログラミング言語「Python」を学び、残りの3カ月は、Enthoughtの担当者と相談しながら、テーマを決めてPythonベースのAIアプリケーション開発に着手した。
開発に着手したAIアプリケーションは、LIMEX専用の画像解析AIソフト、LIMEXの生産を安定させるレコメンドシステム、CirculeXの生産を効率化するシステムの3つだ。LIMEX専用の画像解析AIソフトはLIMEXの画像データからLIMEX内におけるフィラーの分散状態や空隙(くうげき)などの形状の解析を可能にする。
LIMEXの生産を安定させるレコメンドシステムは、上記のAIソフトで解析した大量のデータをインプットすることでMLを行い、優れたフィラーの分散状態や空隙の形状を実現する成形条件を導き出せるという。
CirculeXの生産を効率化するシステムは、同社が取得した廃プラスチックにおける異物の量や組成などのデータ、廃プラスチックがペレットになる前の中間品(グラッシュ)の性状データ、その中間品が押出成形機内で混錬されている際の押出機内のセンサー値を得る。これらのデータを基に完成するペレットの性状を予測できる。予測結果から、物性に合わせてペレットの自動選別が行えるようになる見込みだ。これにより、手作業でペレットを評価することなく顧客の要望に適したペレットを選びやすくする。
加えて、最適な調合条件や成形条件を導き出すこともでき、経験が浅く技能が未熟な技術者でも優れた加工が行えるようになり、技術伝承の課題を解消できるとみている。
同社は、これらのAIアプリケーションで、国や地域ごとに異なる石灰石や無機フィラーの性状に合わせてLIMEXあるいはCirculeXの最適な成形方法を算出できる体制を構築する。なお、現在は各アプリケーションの開発を進めている。
これらの事例から、社外教育型は、MIの運用をけん引するリーダーが不在でMIの知見が少ない人材が多いチームでも効果を発揮することが分かる。EnthoughtのようなMIコンサルタントから教育を受ける場合は海外における最新のMI技術と情報もサービスと併せて提供されるため外部の研究機関との連携や社内での教育プログラムの構築などが必要ないという利点もある。一方で、外部が構築した教育プログラムを活用するため、MI教育のノウハウが蓄積されにくいという短所も存在する。
そのため、2024年も社外教育型は、MIの知見が少ない人材が多いチームで迅速にMIの運用を開始したいスタートアップや中小企業、大手のメーカーで利用が拡大するとみられる。
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