生成AIにも対応し得る性能向上に注目が集まるエッジAIに対して、エンドポイントAIで注目すべきは「使い勝手の向上」になるだろう。
そもそも論として、AIモデルとマイコンベースの組み込み機器は相性がいいとは言い難い。エンドポイントに配置する末端の組み込み機器に搭載されるようなマイコンにとって、AIモデルの推論処理の実行というタスクは処理性能もメモリ容量も圧倒的に不足していてる。
とはいえ、外観検査などに用いられる画像ベースのAIモデルではなく、時系列データをベースとするAIモデルであれば、メモリ容量が数MBクラスのハイエンドマイコンであれば実装すること自体は不可能ではない。Armが2023年11月に発表した最新のマイコン向けプロセッサコア「Cortex-M52」は、エンドポイントAIを低コストで実現するローエンドのラインアップに位置付けられており、今後もエンドポイントAIを意識した製品は続々と登場するだろう。
最大の問題は、マイコンベースの組み込み機器の開発者にとって、AIモデルの開発という作業に親しみがないことだ。CPUで制御する組み込みコードとDSPなどで処理するAIモデルは別々に開発することになるが最終的には統合しなければならない。この統合作業を主導する組み込み機器の開発者が、AIモデルに関する知識を持って取り扱えないということがハードルになっていた。
この問題に対して、マイコンベンダー各社は自社マイコン向けにAIモデルを最適化するツールを投入することで対応を進めている。STマイクロエレクトロニクスは「NanoEdge AI Studio」、NXPセミコンダクターズの「eIQ」を展開しており、ルネサス エレクトロニクスも2022年7月に買収したReality AIのAI開発ツール「Reality AI Tool」によるルネサス製マイコンへの対応を拡充している。インフィニオン テクノロジーズも2023年5月に買収を発表したImagimobのAI開発ツールの自社製品への対応を急いでいる。これらのツールを使えば、AIモデルに詳しい知識がなくても統合作業を進められるようになる。
これらマイコンベンダーにプロセッサコアを提供するArmも、制御用組み込みコード、DSPに対応するDSPコード、AIアクセラレータであるNPUで処理するAIモデルを簡単に統合できるソフトウェア開発環境を提案している。
また、一般的なマイコンを用いたエンドポイントAIでは、画像処理など深層学習に基づくAIアルゴリズムは取り扱えないことが一般的だった。AIスタートアップのエイシングが2023年5月に発表した「AiirDNN」は、Armの「Cortex-M4F」を搭載する動作周波数170MHz、メモリ100KB以下の汎用マイコンでも推論実行が可能になる技術だ。使い勝手にとどまらないエンドポイントAIの進化も今後進んでいくことになるだろう。
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