Armはマイコン向けプロセッサコア「Cortex-Mシリーズ」の新プロダクト「Cortex-M52」を発表。「Cortex-M55」から採用しているベクター演算処理技術「Helium」を搭載する一方で、同じ製造プロセスでのダイサイズを23%削減するなどしてコストを抑えた。
Armは2023年11月21日、マイコン向けプロセッサコア「Cortex-Mシリーズ」の新プロダクト「Cortex-M52」を発表した。2020年2月発表の「Cortex-M55」から採用しているDSP(デジタル信号処理)やML(機械学習)アルゴリズムに最適なベクター演算処理技術「Helium」を搭載する一方で、同じ製造プロセスでのダイサイズを23%削減するなどしてコストを抑えたとする。既に採用企業も決まっており、2024年内には製品がリリースされる見込みである。
同社は最新のマイコン向けプロセッサアーキテクチャである「Armv8.1-M」に基づくプロダクトを拡充している。このArmv8.1-Mの大きな特徴の1つが、DSPやMLアルゴリズムの処理に最適なHeliumだ。Heliumを搭載するCortex-Mシリーズとしては、2022年2月発表の「Cortex-M85」がハイエンド、Cortex-M55がミッドレンジ、そして今回のCortex-M55がローエンドという位置付けでラインアップがそろったことになる。
Cortex-M52は、Cortex-Mシリーズマイコンの累計出荷1000億個をけん引してきた「Cortex-M3」「Cortex-M4」「Cortex-M33」からの移行を強く意識したプロダクトである。Cortex-M33との性能比較ではDSPで2.7倍、MLアルゴリズムで5.6倍に向上するとともに、DSP/MLアルゴリズム処理における電力消費効率も2.1倍になっている。
Arm日本法人であるアーム 応用技術部 フィールドアプリケーションエンジニアの喜須海統雄氏は「生成AIに代表されるようにAI技術は進化を続けており、より現場に近いエンドポイントでAI処理を行いたいというニーズも高まっている。今回発表するCortex-M52は、このエンドポイントAIのさらなる普及を可能にすることを目指して開発した」と語る。
なお、エンドポイントAIの処理能力としては、Cortex-MシリーズにNPU(ニューラルプロセッシングユニット)「Ethos」を組み合わせる場合が最も高く、その次にCortex-M85とCortex-M55があり、Cortex-M52は振動検知やセンサーフュージョン、キーワード検知、異常検知など比較的処理負荷の低いAI処理での利用が想定されている。
Cortex-M55との比較では、ダイサイズを小さくするためにHeliumの機能を最適化しており、DSP/MLアルゴリズムの処理性能は約半分になっているという。ただし、Cortex-M3、Cortex-M4、Cortex-M33からの移行を意識していることもあり、バスインタフェースは最新のAXIだけでなく前世代のAHBも搭載している。
これらの他、Cortex-M33から採用している「Trusted Firmware-M」や「PSA(Platform Security Architecture)」によりセキュリティの確保が容易になっている。AI関連ソフトウェア開発では、CPUを用いる通常の組み込みコード、DSP/MLアルゴリズムのコード、NPUのコードなどを別々に開発して統合することが課題になっているが、ArmのCortex-M52対応のソフトウェア開発環境であればその必要はない。
Cortex-M52はサードパーティーのエコシステムも充実しており、Armが提供するクラウド上で仮想的に再現した物理ICの機能等価モデルである「Arm Virtual Hardware」も利用可能である。
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