東京大学らは、大規模ゲノムワイド関連解析により、胃および十二指腸潰瘍の発症と関連する新たな遺伝子座位を25カ所同定した。また、胃および十二指腸潰瘍のなりやすさに関わる遺伝的因子も示唆された。
東京大学は2023年12月8日、日本人と欧米人を統合する大規模ゲノムワイド関連解析(GWAS)により、胃および十二指腸潰瘍(かいよう)の発症と関連する新たな遺伝子座位を25カ所同定したと発表した。
また、一細胞トランスクリプトーム解析などのデータとの統合から、胃および十二指腸潰瘍のなりやすさを左右する因子として、胃壁の細胞分化とホルモン調節における遺伝的多様性が示唆された。岩手医科大学、McGill大学らとの国際共同研究による成果だ。
胃潰瘍と十二指腸潰瘍は、合わせて消化性潰瘍と呼ばれている。今回の研究では、日本人メタ解析を、バイオバンク・ジャパンと東北メディカル・メガバンク機構が保有する胃および十二指腸潰瘍症例の2万9739例と、対照群24万675例のゲノムデータを用いて実施し、19カ所の新たな関連座位を同定した。
また、日本と欧州の消化性潰瘍5万2032例と、対照群90万5344例を組み合わせた複数集団のメタ解析により、さらに新たな関連座位を6カ所同定した。
検出された消化性潰瘍関連座位の遺伝的効果は、日本人と欧州系集団で相関していた。一方、胃潰瘍と十二指腸潰瘍の間では同じ遺伝子構造を共有しているものの、胃潰瘍で遺伝的な効果量が全体より小さいことが明らかとなり、胃潰瘍の遺伝性構造の不均一性が示唆された。
また、ピロリ菌層別解析により、ピロリ菌陽性消化性潰瘍と特異的に関連するコレシストキンB受容体(CCKBR)遺伝子周囲のSNP(一塩基多型)が1つ同定された。CCKBRは、胃酸分泌を誘導する主要なホルモンであるガストリンに対して高い親和性を有する。
全身のトランスクリプトームデータを用いた解析では、消化性潰瘍については、胃、膵臓、小腸、腎臓で潰瘍関連遺伝子が集積していることが明らかとなった。また、十二指腸潰瘍については、胃、膵臓、前立腺で、胃潰瘍については胃で、潰瘍関連遺伝子の集積が見られた。
細胞特性解析は、胃および十二指腸の一細胞トランスクリプトームを用いて実施し、消化性潰瘍と胃および十二指腸の細胞型間の関連は、MAGMAとLDSCを用いて解析した。その結果、どちらの手法でも、ホルモンであるソマトスタチンを産生する胃D細胞への有意な集積が確認された。
今回の研究により、消化性潰瘍のリスク座位数は既知の座位数から4倍に増加した。この成果を基に、多数の遺伝子因子から発症に関連するリスクスコアを計算するモデルの開発が可能で、予防的医学の構築につながることが期待される。
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