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排水中の窒素化合物を除去/回収する技術の現在地有害な廃棄物を資源に変える窒素循環技術(6)(2/2 ページ)

» 2023年12月20日 08時30分 公開
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活性汚泥処理の課題を解決する手法とは?

 このように活性汚泥処理は現在、有機窒素含有廃水の処理として広く活用されている一方、いくつかの課題があります。これらを解決する1つの方法として、別の生物処理であるアナモックス法に注目が集まっています。アナモックス法は特に窒素化合物の処理に着目した方法です。

 アナモックス法は、汚水中のアンモニウムイオンを一部亜硝酸化した上で、アンモニウムと亜硝酸をアナモックス細菌により窒素ガスに変換、無害化する方法です(図2)。この方法は、CN比が低い排水処理に適しており、メタノール添加などが必要ありません。さらに、従来の硝化反応に比べて必要な酸素量は1/2以下であり、電気使用量を削減できるとのことです。これらの利点を踏まえると、アナモックス法は、窒素化合物が多い排水の無害化、という観点では、大きなメリットを持っている方法といえるでしょう。

図2 アナモックス法の反応概要(参考文献[5]より) 図2 アナモックス法の反応概要(参考文献[5]より)[クリックで拡大] 出所:タクマ

 他には、MAP法と呼ばれる方法があります。MAP法は、マグネシウムを汚水に添加し、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP、MgNH4PO4)を沈殿させる方法です[6]。得られたMAPは肥料などに活用されます。ただ、前述の通り、排水中にはリン酸より多くの窒素が含まれていることが多く、その場合はリン酸と同じモル数しかアンモニウムを回収できません。そのため、この方法は窒素処理ではなく、リン回収の方法として考えられていることが多いようです。

無機窒素廃水の処理法

 次に、無機窒素廃水の処理について紹介します。無機窒素廃水とは、一般的にはNH4+が含まれている場合と、硝酸(NO3-)あるいは亜硝酸(NO2-)などの硝酸性窒素が含まれているケースを指すことが多いです。特に、有機物の含有量が低い場合を無機排水と呼んでいるようです。発生する事業場としては、環境省の水質汚濁物質排出量総合調査の分類でいえば、酸あるいはアルカリによる表面処理施設、金属製品製造業あるいは機械器具製造業、電気メッキを行う施設などが挙げられます。

 無機窒素廃水に含まれるNH4+の処理についても、まずは前述の生物処理が挙げられます。ただし、有機物が少ない場合は有機物の添加を行わなければならず、その設備が大きく導入しづらいため、他の手法も活用されています。

 例えば、燃焼処理が挙げられます[7]。燃焼処理では、無機窒素廃水に燃料を添加して、含まれている有害物質を燃焼させる場合が多いです。しかし、大量の水を蒸発しなければならないため、どうしても燃料コストがかかってしまうことが難点です。解決策として、NH4+だけを選択的に蒸発させる、アンモニアストリッピング法があります。この方法ではpH(水素イオン指数)をアルカリ性に調整します。

 NH4+は、アルカリ性にするとアンモニア(NH3)に変わり、蒸発しやすくなります。これにより水の蒸発を大幅に減らせます。蒸発させたNH3は、触媒を利用し分解や無害化を行う場合(図3)[8]もあれば、硫酸と反応させ、硫酸アンモニウムにする場合もあります。

 また、ヒートポンプを利用し、さらに熱効率を向上させた装置なども活用されています[9]。このように、排水処理技術は日進月歩で高性能な手法が実用化されています。それでもアンモニアストリッピング法にはpHを調整するための薬剤が必要であったり、排水全体を加熱するエネルギーが必要だったり、改善すべき点があることも留意が必要です。

図3 アンモニアストリッピング法と酸化分解の組み合わせによるアンモニウム排水の処理フロー(参考文献文献[8]より) 図3 アンモニアストリッピング法と酸化分解の組み合わせによるアンモニウム排水の処理フロー(参考文献文献[8]より)[クリックで拡大] 出所:日本触媒

 また、アンモニウム吸着材は、特に水槽の水質維持などに使用されていますが、排水処理に利用される例はあまり見ないようです。ただ、最近はアンモニウムを選択的に吸着除去する吸着材も開発、販売されています[10]。こちらは今後の回で、新技術として紹介します。

 硝酸性窒素を含む排水については、環境省が地下水汚染対策の観点からまとめた資料が便利です[11]。前述した生物処理についても記載があります。ただし、有機窒素化合物の場合と同様、CN比が低い場合はメタノールなどの有機物や、硫黄などを導入する必要があるとのことです。

 それ以外には、物理化学的方法が紹介されています。1つはイオン交換法です。硝酸/亜硝酸と同じ陰イオンの塩化物イオンが含まれるイオン交換樹脂を充填した容器(カラム)を準備しておき、そこに水を通水します。すると、硝酸/亜硝酸が吸着され、代わりに塩化物イオンが出てくる、という仕組みです。また、イオン交換膜を用いた方法も紹介されています。

最後に

 ここまで述べてきた通り、窒素含有廃水の処理では、さまざまな手法が実用化されており、実際に活躍しています。一方、「生物処理では設備が大きくなりがち」「変動対応が限定的」「CN比が低い場合は有機物添加が必要」などの課題があります。アンモニウム排水処理で活用される燃焼処理やアンモニアストリッピング法では、特にエネルギー的により効率的な手法の開発が期待されます。また、窒素化合物の資源化が可能な技術もありますが、多くは無害化が目的となっています。

 次回からは、このような既存技術を踏まえつつ、現在開発が進んでいる技術、特に窒素化合物の資源化が可能な窒素循環技術を中心に紹介していこうと思います。(次回へ続く

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筆者紹介

産業技術総合研究所 首席研究員/ナノブルー 取締役 川本徹(かわもと とおる)

産業技術総合研究所(産総研)にて、プルシアンブルー型錯体を利用した調光ガラス開発、放射性セシウム除染技術開発などを推進。近年はアンモニア・アンモニウムイオン吸着材を活用した窒素循環技術の開発に注力。2019年にナノブルー設立にかかわる。取締役に就任し、産総研で開発した吸着材を販売中。ムーンショット型研究開発事業プロジェクトマネージャー。博士(理学)。


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