カーボンニュートラルへの挑戦

日本初の民間液体ロケットエンジンは脱炭素、北海道大樹町が民間宇宙産業の中心に宇宙開発(3/3 ページ)

» 2023年12月18日 07時00分 公開
[大貫剛MONOist]
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打ち上げは2024年度以降、今後は実機部品の製造も

開発中の「ZERO」ロケットの全体図 開発中の「ZERO」ロケットの全体図。2段式の液体ロケットで、最大800kgの人工衛星を搭載できる[クリックで拡大] 出所:IST

 ISTでは、2024年度以降の打ち上げを目指して宇宙ロケットZEROの開発を進めているが、2023年に入って仕様が変更されたため開発がやや遅れている。変更の理由は、以前の想定より今後主流となる小型衛星のサイズが大きくなってきており、市場ニーズに合わせるためだという。2023年9月には、文部科学省の「中小企業イノベーション創出推進事業」(SBIRフェーズ3)に採択されており、政府需要なども考慮して修正したようだ。

 打ち上げ能力は軌道により異なるが、地球観測衛星に用いられる太陽同期極軌道(SSO)の場合で、搭載可能な衛星が150kgから250kgへ増量された。このため機体直径が1.7mから2.3mへ、エンジン推力は1機60kNから130kNへ拡大した。機体構成はほぼ変わっておらず、第1段にはCOSMOSロケットエンジンを9機、第2段には同じCOSMOSロケットエンジンを真空用に一部手直ししたものを1機使用する。推進剤はいずれも液化バイオメタンと液体酸素を用いる。

 今回試験した燃焼器を含め、これまでに製作した試作品は仕様変更前のサイズのものが多い。しかし設計や製作の手法は大きく変わらないので、一から作り直しということはなく、試作の成果を踏まえてサイズアップしていくとのことだ。

IST本社工場機体の構造強度試験を行う建屋 IST本社工場の外観(左)。写真内左側は2階が事務所、1階が電子機器の作業場など。同右側は板金や溶接、組立などの作業場。発射場まで5kmほどしか離れていない工場は世界的にも珍しい……。機体の構造強度試験を行う建屋(右)。第1段ロケットを立てる空間がある。現在は第2段の試験が行われており、ブルーシートを被せているのは雨が降っていたため[クリックで拡大]
「ZERO」の機体の試作品「ZERO」の機体の試作品 「ZERO」の機体の試作品。左右いずれも拡大前の1.7m径のサイズだが、製造方法や強度などの試験に用いられており、2.3mに拡大した1号機開発へのデータを提供する[クリックで拡大]
「ZERO」の機体を溶接するのに用いる回転式の治具 「ZERO」の機体を溶接するのに用いる回転式の治具。アルミ合金の板材を筒状に丸めて溶接する作業は、IST工場内で行われる。工場は観測ロケット「MOMO」の量産と宇宙ロケット「ZERO」の開発が可能な広さを持つが、「ZERO」の量産を開始するにはさらに広い工場が必要だという[クリックで拡大]

アジア初の公共宇宙港「北海道スペースポート」も始動

 ISTのロケット開発と並行して、大樹町多目的航空公園を宇宙開発拠点へ発展させる「北海道スペースポート(HOSPO)」事業も本格化している。2021年には大樹町などが出資する運営企業「SPACE COTAN株式会社」が設立され、アジア初の公共宇宙港の建設に着手した。

LC-0と、建設中のLC-1の位置 LC-0と、建設中のLC-1の位置。1000m級滑走路の延伸工事は舗装工事まで完成している。左下に見える3000m滑走路は将来構想[クリックで拡大] 出所:SPACE COTAN

 ZEROの発射場となるLC-1は、LC-0に隣接して建設が始まっている。北海道スペースポートの施設として整備されるため、建設費はISTではなく大樹町が負担している。現在ある1000mの滑走路の300m延伸工事を含む第1期整備費用23億円は、半額を内閣府地方創生拠点整備交付金で、残りをふるさと納税で賄うため、町民負担はない。

北海道スペースポートの造成工事北海道スペースポートの造成工事 LC-1の造成工事が始まったエリア(左)。右奥の施設がLC-0。LC-1のロケット発射点(右)。中央の窪んだ地形が、ロケット噴射炎を海側へ逃がす溝として利用される[クリックで拡大]

 LC-1に設置するZERO発射のための設備はISTが用意するが、北海道スペースポートは「公共宇宙港」なので他社も利用が可能で、実際に台湾のTiSPACEが2024年に北海道スペースポートでの観測ロケット打ち上げを計画している。さらに2期工事として、複数社が同時にZEROクラスのロケットを整備できる施設を有する、LC-2の建設も計画されている。

LC-0の写真(「MOMO」打ち上げ当時)とLC-1、LC-2の想像図 LC-0の写真(「MOMO」打ち上げ当時)とLC-1、LC-2の想像図。LC-1の完成時期は2024年度となっている。LC-2には3つのロケット組立棟が用意され、最大3社あるいは3機のロケットの同時整備が想定されている[クリックで拡大] 出所:SPACE COTAN
北海道スペースポートの将来コンセプトイメージ 北海道スペースポートの将来コンセプトイメージ。大樹町のみならず北海道全体で宇宙産業を発展させ、「宇宙版シリコンバレー」とすることを目指している[クリックで拡大] 出所:SPACE COTAN

 ISTと北海道スペースポートが名実ともに「宇宙産業」となる日が、ついに視野に入ってきた。

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