インターステラテクノロジズが、人工衛星打ち上げ用ロケット「ZERO」開発のためのサブスケール燃焼器燃焼試験を報道公開。本稿では、開発中のロケットエンジン「COSMOS」の詳細や、試験が行われた北海道大樹町の「北海道スペースポート」の状況などについて説明する。
2023年12月7日、インターステラテクノロジズ(以下、IST)は、人工衛星打ち上げ用ロケット「ZERO」開発のためのサブスケール燃焼器燃焼試験を報道公開した。日本で初めての、民間企業が主体となって開発中の液体ロケットエンジンの燃焼試験だ。
今回試験を公開した燃焼器は、2024年度以降の打ち上げを目指している、IST初の人工衛星打ち上げロケットとなるZEROのメインエンジンの主要部品。この中で液体推進剤を燃焼して高温高圧のガスを発生させ、ノズルから噴射することで推進力を得る。
推進剤には、酸化剤として液体酸素、燃料として液化メタンを採用した。従来の観測ロケット「MOMO」では燃料にエタノールを使用していたが、ZEROではより高性能で将来の発展性の高い、メタンを採用している。メタンの原料は液化天然ガス(LNG)ではなく、大樹町の酪農家が生産したバイオメタンを使用しており、「カーボンニュートラル」「地産地消」をうたっている。
また、ZEROのエンジンの名称を「COSMOS」とすることも初めて発表された。COSMOSの推進力は1機130kN(約13トン重)を計画しているが、これは2023年前半にロケット全体のサイズを大きくする変更が行われた後の数字で、今回試験した燃焼器は計画変更前のものに近い60kN級だ。このため、ISTでは「サブスケールモデル」と称しているが、新規開発技術の確認用としては問題ないという。
燃焼試験が行われた場所は、北海道大樹町にある「北海道スペースポート」のLC-0(第0発射場)と呼ばれる場所である。大樹町多目的航空公園と隣接する海岸沿いで、観測ロケットMOMOの発射もここから行われた。現在はエンジン開発用の設備が増設されている。
燃焼器には、ISTとして初めて「再生冷却方式」を採用した。ロケットエンジンの燃焼ガスは最高3000℃にも達するため、金属材料では耐えられない。これまでのMOMOでは、燃焼室内はアブレーターと呼ばれる樹脂で覆い、エンジン燃焼時間中は樹脂が蒸発することで断熱を行っていた。また、ノズル部は高温に耐えるグラファイト(黒鉛)の削り出しで作られていた。しかし、このような構造では大型化や高性能化に限界があり、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の大型ロケットなどはいずれも再生冷却方式を採用している。
再生冷却方式では、燃焼器を2重構造として、その隙間に液体燃料を流すことで燃焼室を冷却する。外筒には高強度のステンレス合金、内筒には熱伝導性の良い銅合金が使用されている。燃料は燃焼器の壁で加熱されてからインジェクタ(噴射器)へ送られるので、熱エネルギーは燃焼エネルギーに加わる形で「再生」される。このため、再生冷却と呼ばれる。ISTではこれまで、水冷式の燃焼器の試験は行っているが、今回試験するものは実際に燃料の液化メタンを使用する燃焼器だ。
このように複雑な燃焼器で高圧の燃焼を行うため、推進剤の供給はこれまでのMOMOのガス圧方式から、ガスジェネレータサイクルとなる。これは高圧の燃焼ガスを発生させるガスジェネレータでターボポンプを駆動し、ポンプの圧力で推進剤を燃焼器へ送り込むものだ。これも大型化や高性能化には必須の技術といえる。
現在、燃焼器とガスジェネレータ、ターボポンプは並行して開発が進められており、今回は燃焼器単体の試験だが、将来はターボポンプと燃焼器を組み合わせたエンジン統合試験が行われる。これらの技術が完成すれば、COSMOSは世界の宇宙ロケット用エンジンと同様の機能を、日本のベンチャーで初めて実用化することになる。
今回のサブスケール燃焼器を使用した燃焼試験は4回目。2023年11月下旬から開始しており、1回目は1秒程度の動作試験、2回目以降は10秒間の燃焼試験となっている。10秒間燃焼すれば燃焼器の温度や圧力などが定常状態に達するため、十分なデータが取得できるという。
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