エレファンテックが台湾ICT大手とMoU締結、海外企業で低炭素PCBの大規模採用は初製造マネジメントニュース

エレファンテックは、都内で記者発表会を開き、台湾の台湾のハイテク製品受託製造大手であるLITEONと低炭素プリント基板(PCB)「P-Flex」の量産化推進に向けたMoU(基本合意書)を締結したと発表した。

» 2023年11月16日 08時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 エレファンテックは2023年11月15日、都内で記者発表会を開き、台湾のハイテク製品受託製造大手であるLITEONと低炭素プリント基板(PCB)「P-Flex」の量産化推進に向けたMoU(基本合意書)を締結したと発表し、MoU(基本合意書)の調印式も行った。

MoU(基本合意書)の調印式。エレファンテック 代表取締役社長の清水信哉氏(左)とLITEON 日本法人 社長執行役員の酒屋へリオ氏(右)[クリックで拡大]

MoU締結の目的

 MoUの締結により、エレファンテックはLITEONへのP-Flexの供給だけでなく、共同でグローバルのエレクトロニクス企業であるDell (デル)、HP、Lenovo(レノボ)などへの提案を実施する見込みだ。まず、PC用キーボードのバックライト向けP-Flexの供給を皮切りに、さまざまな製品/事業への適用を行い、低炭素化に貢献していく。海外企業での大規模な採用は今回が初となる。

エレファンテック 代表取締役社長の清水信哉氏

 エレファンテック 代表取締役社長の清水信哉氏は「第1ステップは三井化学名古屋工場内(愛知県名古屋市)にある当社の量産製造拠点『AMC名古屋』で生産したP-Flexを供給し、第2ステップはLITEONの製造拠点にも当社の量産インクジェット印刷装置を導入しP-Flexの生産性を高める」と話す。なお、現在、LITEONではPC用キーボードを月間400万台製造しているが、そのうちバックライト搭載タイプは200万台を占める。しかしながら、エレファンテックのAMC名古屋にある量産インクジェット印刷装置では年間で数百万個のP-Flexしか生産できず、その需要への対応が難しい。そこで、第2ステップでLITEONの製造拠点にもエレファンテックの量産インクジェット印刷装置を導入し月間200万個の需要に対応していく。「ステップ2への対応は2025年以降になる見通しだ」(清水氏)。

 一方、LITEONは、MoU締結によりエレファンテックの低炭素PCBをキーボードのバックライトなどで採用することで、環境配慮製品のラインアップを強化し市場での訴求力を高める狙いがある。LITEON 日本法人 社長執行役員の酒屋へリオ氏は「当社がカーボンニュートラルを推進している多数の顧客を抱えている点もMoU締結の要因になった」とコメントした。

エレファンテックの強みとこれまでの歩み

 2014年に東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授の川原圭博氏(現:東京大学 大学院工学系研究科 教授)と共同で創業したエレファンテックはプリンテッドエレクトロニクス製造技術の開発、製造サービスの提供を行うメーカーだ。独自開発した「ピュアアディティブ法」により、一般的なPCB製造に用いられている「サブトラクティブ法」と比べ炭素排出量や材料の使用量を削減できることを強みに持つ。ピュアアディティブ法では基板の配線必要部分にインクジェット印刷で銅インクを印刷し回路を形成した後、回路の上に無電解銅めっきで銅を成長させ膜厚を構築しPCBとする。これにより、サブトラクティブ法と比べ、銅使用量を70%、CO2排出量を75%、水使用量を95%削減できる。

「ピュアアディティブ法」のイメージ[クリックで拡大] 出所:エレファンテック
「ピュアアディティブ法」の効果[クリックで拡大] 出所:エレファンテック

 加えて、一気通貫のモノづくりを可能にするピュアアディティブ法に必要な「金属のナノ粒子化」「金属ナノインク配合」「金属インクジェット印刷」「無電解銅めっき」などの技術を包括的に有している。金属のナノ粒子化では、粒径が小さく均一な状態を保つ金属ナノ粒子をインクに配合することで高い安定性を実現する。金属ナノインク配合では、金属ナノ粒子を保存性高く、インクジェット印刷に最適化された状態で金属ナノインクに配合できる。金属インクジェット印刷では、独自の印刷装置印刷装置とプリントヘッドの制御システムにより銅ナノインクの精密なインクジェット印刷を実現している。無電解銅めっきでは、効率的にめっき層を成長させることで必要膜厚を短時間で確保できる。

 同社は2018年にピュアアディティブ法による低炭素PCBの小規模製造実証を開始し、2019年にエプソン社と資本業務提携を締結した。2020年には三井化学名古屋工場内に低炭素PCB量産拠点のAMC名古屋を設立し、顧客に低炭素PCBの供給を開始。2022年には研究開発拠点「新木場 R&Dセンター」(東京都江東区)を設立して、2023年にはAMC名古屋に量産インクジェット印刷装置を設置し、年間で数百万個のP-Flexを生産できるようにして、量産体制を構築した。量産インクジェット印刷装置にはセイコーエプソン製のインクジェットヘッドを採用している。量産インクジェット印刷装置により生産されたP-Flexは既にEIZOの操作スイッチやフクダの高精度圧力モジュールなどで導入されている。

P-Flexの量産インクジェット印刷装置[クリックで拡大] 出所:エレファンテック

PCBの市場と課題

 PCBはほぼ全ての電子機器に使用される電子部品で、電子機器点数の増加による需要の高まりを受け、今後も継続的な市場成長が見込まれる。しかし、プリント基板の製造で一般的なサブトラクティブ法はレジストの廃水や銅の排出で問題がある。例えば、PCB由来の総排水量は400万m3で、そのうち14万トンの銅が排水中に排出されている。廃水は高濃度の塩酸を含む強炭酸で環境汚染につながっている。また、PCB由来の温室効果ガス(GHG)は6600万t-CO2eqで世界全体の0.13%を占める。

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