筑波大発の水中ドローンスタートアップは“海のストリートビュー”を目指すスタートアップシティーつくばの可能性(4)(1/3 ページ)

筑波研究学園都市としての歴史を背景に持つ茨城県つくば市のスタートアップシティーとしての可能性を探る本連載。第4回は、水中ドローンのスタートアップFullDepthの創業者である伊藤昌平氏へのインタビューから、地方都市とスタートアップ産業の関わりを探る。

» 2023年11月16日 08時00分 公開

 筑波研究学園都市としての歴史を背景に持つ茨城県つくば市のスタートアップシティーとしての可能性を探る本連載。第4回で取り上げるのは、水中ドローンの開発と提供を行い、水中のDXで日本初のIPOを目指すスタートアップだ。深海を探索する夢を仕事にした若き起業家へのインタビューを手掛かりに、地方都市とスタートアップ産業の関わりを探ってみたい。

⇒連載「スタートアップシティーつくばの可能性」バックナンバー

海の中は人類が知らないことばかり

 Googleマップ上に道路沿いのパノラマ写真が記録されたWebサービス「Googleストリートビュー」を利用したことはあるだろうか。現地へ行く前に閲覧すれば雰囲気が把握できて便利だし、行く予定のない場所を散歩するように使うのも楽しめるサービスだ。都市部だけでなく離島や山間部など、地上の道のほとんどをカバーしている。

 Googleストリートビューには海中の写真が提供されている場所もあるが、グレートバリアリーフのような透明度の高く水深も浅い海のごく一部に限られる。海の表面積は約3億6000万km2。これは地球全体の表面積の約70%を占め、最も深い場所の深度は1万mを超える。海中について人類は知らないことばかりだ。

 今回紹介する株式会社FullDepth(フルデプス)の共同創業者で取締役を務める伊藤昌平氏は「海のストリートビューを完成させる」ことを夢の一つに掲げている。

FullDepth 取締役 共同創業者の伊藤昌平氏 FullDepth 取締役 共同創業者の伊藤昌平氏[クリックで拡大]

 FullDepthは水中ドローンを開発、提供しているスタートアップ企業だ。現在のメイン商品である産業用水中ドローン「DiveUnit300」は水深300mまでの潜水が可能で、高精細カメラや各種機材を搭載できる。洋上風力発電や、港湾、橋梁、ダムの内部など、水中に隠れているインフラ設備の点検業務で活躍している。テレビのバラエティ番組などで海中を探索する企画でもFullDepthの水中ドローンは引っ張りだこだ。

FullDepthのWebサイト FullDepthのWebサイト[クリックでWebサイトへ移動]

 水中の調査や作業をする上で一般的な方法は、人間が直接潜るというものだ。しかし透明度の低い水中は、人間による目視での調査には向かない場合が多い。ダムのような水の濁りやすい環境では1m先も見えないこともある。潜水中の死亡事故も毎年発生している危険な仕事だ。

 これまでは大規模な水中調査には産業用ロボットが利用されていたが、こうしたロボットを利用するには高額なコストがかかる。FullDepthが提供する水中ドローンは低コストで利用でき、現場での運用人数も数人で済む。ダムや橋桁のコンクリート壁の調査といった重要度の高い作業が、以前よりも安全かつ効率的に行えるようになる。

FullDepthの水中ドローン FullDepthの水中ドローン[クリックで拡大] 出所:FullDepth

 スタートアップにはさまざまな業態がある。本連載が注目しているのが「ディープテック」と分類されるスタートアップ企業だ。研究を通じて得られた技術を用いて、社会に大きなインパクトを与える事業を行うスタートアップはディープテックと呼ばれる。FullDepthも水中ドローンの機体開発や取得データの解析を通して社会的意義の高い課題解決に取り組むディープテックスタートアップだ。

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