Simulation Governanceの構成要素40項目と実現レベルを診断する仕組みシミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜(3)(2/3 ページ)

» 2023年10月24日 09時00分 公開

カテゴリー3:活用(HOW)

 HOWを構成する一つである活用のカテゴリーは、「活用場面」「活用手法」「管理の仕組み」という3つのサブカテゴリーで構成されます。

活用場面

 活用場面では最初に、主なCAEテーマが適用されている「Vプロセスでの位置付け」がどのあたりかを確認します。CAE利用者が、その活用効果を理解しながら「Vプロセスの認識」を適切に持っているかどうかは、CAEという車輪の動力を空回りさせずに使いこなすための最初の指標となります。「活用効果の測定」は、CAEを単なる便利道具ではなく、成果を出すための道具として意識するために重要なアクションです。測定の結果として、「活用効果の定量的成果」がどの程度出ているのか、客観的に議論し、改善につなげることができますし、CAE関連コストを適切に正当化することが可能になります。CAEが有効に活用されるかどうかの見極めテーマとして、「設計者展開の仕方」がよく挙げられます。活用場面のサブカテゴリーについては、ダッソー・システムズの公式ブログ「デザインとシミュレーションを語る」で多様な側面から解説してきました。「第6章 想定設計を実現する」(No.43〜48)や「第8章 複雑性設計に対応する」(No.60〜70)が相当しますので、深く知りたい方はぜひご覧ください。

活用手法(PIDO)

 活用手法については、筆者の専門領域である「PIDO(Process Integration&Design Optimization)」の技術が相当します。ノウハウ活用で説明したところの、モデルと手順の標準化が進めば、「自動化プロセス」を構築する段階に進むことができます。次の自然な流れとして、条件や形状をパラメーターとして変更させることで、「実験計画法〜設計探索」を行うようになるでしょう。いわゆるデータサイエンス的活用の出発点です。バラツキ影響を評価するためのロバスト設計や信頼性設計手法をまとめた「不確定性手法」は、実験を正しく評価する上でも、現実的な設計をする上でも標準技術ではあるのですが、日本ではいまだに十分に浸透していない危惧があります。実験計画法〜設計探索で得られた多数の計算結果から回帰モデルを作ることは、従来「近似手法」と呼ばれていましたが、昨今は精度が向上したこととその応用性が高まったことから「代理モデル」と呼ばれていますし、実際のところ機械学習(AI)そのものでもあります。この活用手法サブカテゴリーについては、ダッソー・システムズの公式ブログ「デザインとシミュレーションを語る」の第2章(No.10)〜第5章の終わり(No.37)まで、かなりの回数を費やして解説してきました。

管理の仕組み(SPDM)

 管理の仕組みとは、これも筆者の専門領域であるところの「SPDM(Simulation Process&Data Management)」に関わる使い方です。「解析と実験のデータ管理」は地味ではありますが、検索性を劇的に向上したり、再利用率を向上させたりと、シミュレーションデータを有効活用するための基本の“キ”であるといえます。解析データ管理だけの場合もありますが、実験データとひも付けることによって、シミュレーションの精度検証や予測検証という活用シナリオ、さらには要求とのひも付けに広がります。「ワークフローテンプレート」は、自動化されたプロセスを誰でもが再利用できるようにし、解析業務の品質を上げるための基本的な仕掛けとなります。設計プロセスの上流工程で「要求管理とシミュレーション連携」が実現できれば、(要求からの)目標〜(シミュレーションによる)予測〜(実験による)検証という設計活用の流れを確立でき、デザインレビューの品質が向上することで、設計プロセス改革に大きな効果を発揮します。その発展形が、要求管理からさまざまなCAE技術を駆使して製品モデル(CAD)のライフサイクルを管理し、多様な設計情報をつなげた「プラットフォーム活用」です。一言でいうと「デジタルデータによる仕事の整流化と見える化を行う」ということになります。この領域についてもダッソー・システムズの公式ブログ「デザインとシミュレーションを語る」の「第7章 計算品質標準化から知識化へ」(No.49〜59)で取り上げています。

カテゴリー4:体制(HOW)

 HOWを構成するもう一つのカテゴリーとなる体制は、技術を持続的に活用するための組織的な支援の骨組みといえます。

組織的対応

 まず、「組織的対応」の領域として、シミュレーション技術への「利用/応用支援体制」が充実している必要があることは言うまでもありません。「新領域分野開発体制」も、昨今の恐ろしいほどの世界の変わりようや技術発展速度を前にすれば、手遅れにならないように対応しておくことは必須です。ノウハウを有する熟練者が退職していくだけではなく、ただでさえ足りないといわれているデジタル人材、特にシミュレーション技術についての「教育〜人材育成」は、継続的であることが死命を決します。社会の中に教育機関がなくなることは考えられないことと同等の意味で、極めて重要であることが認識されなければなりません。「認定資格や外部講習活用」は、社内教育を補いながらエンジニアのモチベーションを上げるためにも重要な方策といえるでしょう。シミュレーション技術の活用について深く体験するには、設計や実験部門との交流や現場経験が不可欠で、「ローテーション」は長い目で見て、成熟度を上げる人材育成の手段であり、かつ現場への活用を定着させる手段でもあります。

組織活性化

 「組織活性化」という側面では、「社内情報と事例共有」という基本的な仕組みがしっかりと行われていることがベースになります。「社外発表」は自社の技術力アピールになることに加え、他組織との交流を促進し、モチベーション向上と活性化をもたらします。ともすれば、「外部情報収集と学習」は普段の業務活動の中で低い優先度しか与えられないため、ほとんど行われていないことも実態として多いようです。しかし、最新情報を怠らずに把握、学習しておかないことには、自社の方向性を見極められないだけではなく、世の中からの遅れに気付かないリスクが生じます。変革プロジェクトを実施するには自社技術だけでは不可能であることが多いので、「外部組織との連携」も積極的に実施することが肝要です。

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