中小製造業にもできる脱炭素、IVIが7社で実証を行い10万円キットの展開も開始IVI公開シンポジウム2023秋(2/2 ページ)

» 2023年10月16日 07時30分 公開
[三島一孝MONOist]
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カーボンニュートラル実践キットを10万円でリリース

 具体的には、中小製造業でも簡単に電力計測が行えるように「カーボンニュートラル実践10万円キット」をリリースする。これはとにかく簡単に電力計測を行えるようにしたキットで、小型ボードコンピュータ「Raspberry Pi(ラズパイ)」と電力センサー基板、電力計測用クランプなどで構成されている。2023年9月下旬に試作品が完成し、同年10月からIVI内での実証用にサンプル提供を開始する。2024年3月から本格販売を開始する。価格は10万円(税別)となる。

 製品仕様としては、ハードウェアは、標準セットでラズベリーパイ(3Bまたは4B)、電流センサー用基板(2個用/4個用/8個用)、電流センサー(最大80A用/最大300A用)、電流センサー接続コード(1m/2m)、100VのACクランプ用コードで構成されている。ソフトウェアは、電力監視アプリとCN丸ごと実装アプリを提供する。クラウドデータベースとしては、AWSのクラウドデータベースを1年間初期費用に含むという。2年目以降は別途月額2500円が必要となる。

photo カーボンニュートラル実践10万円キットの外観[クリックで拡大] 出所:IVI

中小製造業7社で実証も開始

 これらの機器やアプリを使用し、実際に中小製造業でもカーボンニュートラルを推進できるのかを実証する「中小企業『CNまるごと実装ワークショップ』」も実施した。

photo 錦正工業 代表取締役の永森久之氏

 同ワークショップでは中小製造業7社が参加し、中小製造業としての立場で現実的なカーボンフットプリントの算出方法をどう実現するかを実証をベースに検証していくものだ。ワークショップを取りまとめている錦正工業 代表取締役の永森久之氏は「カーボンフットプリントにより企業選別と淘汰(とうた)が迫られるようになっており中小製造業としてもそこに備えていく必要がある。しかし、正直なところ必要性やメリットが実感しにくい面もある。また、コストをかけたくてもかけられない実情がある。その中で現実的で具体的な方法を模索する。どうせやるのであればビジネスチャンスとしていくことを考えた」と述べている。

 ワークショップに参加した中小製造業は、錦正工業の他、IBS、Creative Works、ケー・ティー・システム、今野製作所、チバダイス、電化皮膜工業の7社となる。従業員数も3〜89人とばらばらで、業態や作っているモノ、将来的なあるべき姿なども大きく異なっている。こうした中で共通点や課題などを探りながら取り組みを進めた。

photo 中小企業「CNまるごと実装ワークショップ」の参加企業7社の基本情報[クリックで拡大] 出所:IVI

 活動は、1カ月に1回ペース行い、2023年6月にまず困りごとの共有(AS-IS)、7月にはあるべき姿の確定(TO-BE)、8月にはシステムの実装(CAN-BE)、9月には成果のフィードバック(CAN-DO)を行ってきた。具体的には、エネルギー消費量の把握、工程や生産設備への按分(あんぶん)、製品ロットへの配賦という3つのステップで取り組んだ。

photo カーボンフットプリントの計算方法の全体像[クリックで拡大] 出所:IVI

 ワークショップを終えて、永森氏は「さまざまな気付きがあった」とし、主に以下の点などを説明した。

  • エネルギー量の把握について事業所全体の電力消費量でしか行えておらず、データ集計もされていない
  • 中小企業では使える予算が限られており、その中で使えるエネルギーの監視や見える化の方法を検討する必要がある
  • 工程や生産設備への按分については、業種や業態ごとに特有のモデルや計算パターンがあり、それらへの対応を学ぶ必要がある
  • 設備単位に按分する基本ロジックを用いた方法がノウハウなので、中小企業のための知識として蓄積していきたい
  • 実績把握や製品ロットへの配賦については、現場の生産管理負荷、管理コストを上げずに実施する方法を探る必要がある
  • 配賦方法にはさまざまな方法が考えられるが、製品や生産方式の特性を踏まえた方法に具体化していく必要がある
  • 材料や購入部品のCO2排出量を把握するための基礎的なデータを入手する必要がある
  • 進め方としては、カーボンニュートラルに関わる部分だけでなく稼働時間の定義や歩留まりの定義など社内で考え方を整理し共通化する必要がある
  • 目に見えないCO2が対象であるため全社員を巻き込む必要があり、そのために動機付けや目標設定の工夫が必要

 永森氏は「取り組みを進めてみてカーボンフットプリントに対する基本的な構造は業種や業態によらずに共通だと分かった。個社の事情に応じて、管理レベルと粒度を決めるのがポイントで、個々のデータ精度よりもその根拠やロジックが重視されることになりそうだ」と取り組んだ上での感想を語っていた。

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