2023年2月1日、FTCは、カリフォルニア州を本拠地として、米NASDAQに上場するデジタルヘルス企業グッドリックス(GoodRx)に対し、ユーザーの許可なしに健康情報をデジタル広告企業と共有したとして、民事制裁金150万米ドル(約2億1800万円)を科したことを発表した(関連情報)。グッドリックスは、プライバシーポリシーの内容に反して、ユーザーの健康状態や処方薬に関する情報を、ユーザーの許可なくサードパーティーのデジタル広告企業と共有する一方、それらの機微な健康情報を利用して、ソーシャルメディアフィード上で健康広告のターゲットにしていたという。
FTCは、民事制裁金に加えて、以下のような対策を講じるようグッドリックスに求めた。
続いてFTCは、2023年3月2日、カリフォルニア州を本拠地とするオンラインカウンセリングサービス企業ベターヘルプ(BetterHelp)に対し、メンタルヘルス課題に関する機微な情報など、ユーザーの健康データをサードパーティーの広告企業と共有することを禁止するとともに、消費者に780万米ドル(約11億3600万円)を支払うことで和解する旨の命令案を提示したことを発表した(関連情報)。ベターヘルプは、「ベターヘルプカウンセリング」のほか、キリスト教徒向けの「フェースフルカウンセリング」、ティーンエージャー向けの「ティーンカウンセリング」、LGBTQ向けの「プライドカウンセリング」を提供している。FTCによると、ベターヘルプは、ユーザー登録プロセスの中で、消費者に対し、目的が制限された場合を除いて、個人の健康データを利用または開示しないことを約束していた。にもかかわらず、ベターヘルプは、消費者の電子メールアドレスや、IPアドレス、健康質問票の情報を、デジタルプラットフォーム事業者と広告目的で利用/開示していたという。
FTCは、ベターヘルプに対して、以下のような対策を求めた。
さらに2023年5月17日、FTCは、イリノイ州を本拠地として妊娠活動管理アプリケーション「Premom」を開発するイージーヘルスケア(Easy Healthcare)が、ユーザーを欺いて、機微な個人情報をサードパーティー(外国企業2社を含む)と共有し、デジタル広告関連企業2社に開示したにもかかわらず、これら不正な開示を消費者に通知しなかったことがHBNR違反に当たるとして司法省に告発したことを発表した(関連情報)。Premomは、AppleおよびGoogleのアプリストアから無料ダウンロード可能な妊活アプリ(関連情報)であり、ユーザー自らデータを入力するだけでなく、スマホアプリやBluetooth対応の体温計などからも健康データを取り込むことが可能となっている。
FTCは、「Premom」がHBNRの適用対象となるPHRだとして、イージーヘルスケアに対して、HBNR違反の民事制裁金10万米ドル(約1450万円)の他、以下のような対策を講じるよう求めている。
なお、FTCによると、Premomは、他のサードパーティーからのSDKをPremomアプリケーションに統合していた。その中には、中国を拠点とするアプリケーション分析プロバイダーであるUmengとJiguangも含まれており、ソーシャルメディアアカウント情報、正確な位置情報、モバイルデバイスに関するデータ、Wi-Fiネットワーク識別子など、機微なユーザーデータが共有されていたという。FTCは、Premomが、ユーザーからの同意取得なしに第三国に拠点がある外国企業とデータを共有していた点に加えて、サードパーティーと共有するデータを適切に暗号化していなかった点を問題視している。
本連載第88回で触れたように、米国大統領行政府は2022年9月15日、「対米外国投資委員会による国家安全保障リスクの進展に対する堅牢性の考慮の確保に関する大統領令」(関連情報)を発出している。HIPAA適用の有無に関わらず、SaMD/Non-SaMDを、マイクロエレクトロニクス、AI(人工知能)、バイオ技術/バイオ製造、量子コンピュータなど、米国の国家安全保障に影響を及ぼす技術と組み合わせた製品/サービスとして提供する場合、サイバーセキュリティリスクや、米国市民の機微な個人データに対するリスクへの考慮が不可避となる。イージーヘルスケア/Premomの事案は、SaMD/Non-SaMD事業を展開する日本企業にとって対岸の火事ではない。
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